2023年09月19日
欧米から世界へ。急速に広まる「修理する権利」

欧米から世界へ。急速に広まる「修理する権利」

現在、欧米を中心に「修理する権利(Right to repair)」を求める声が高まっており、政府、企業が対応を強化しています。世界の動きと今後について、お伝えします。

「修理する権利」とは

「修理する権利」とは、メーカーから購入したパソコンや自動車、家電製品などを、メーカーを通さず消費者自身で修理できるようにする権利のことです。これまではメーカーか、メーカーが定めた修理業者しか修理できないことが多く、修理費が高いために廃棄して新品を購入する事例が頻発し、電子廃棄物が増える原因の一つになっていました(*1)。しかし、廃棄物をできるだけ出さないサーキュラーエコノミーを実現していくうえで「修理のしやすさ」は重要なポイントです。そこで、2020年ごろから欧米を中心に「修理する権利」を求める市民の声が高まりました。それを受け、政府や企業が対応を進めており「修理する権利」という言葉が頻繁に使われるようになっています(*2)。

欧米では、政府が支援を強化

サーキュラーエコノミーに向けた取り組みを加速しているEUと米国では、次々と手厚い施策が打ち出されています。

EUでは、2020年3月11日に採択した「循環型経済行動計画(Circular Economy Action Plan)」で、廃棄ではなく循環を前提とした製品設計・デザインに重点を置き、消費者の「修理する権利」を強化することを明言しました(*3)。現在はEU全域で、修理のしやすさをスコアで評価・開示しようとする検討が進められています。その先駆けとしてフランスでは2021年1月から、修理のしやすさをスコアで評価し、消費者に情報提供することを義務づけるRepairability Index(修理可能性指数)が施行されています(*4)。

米国でも、2021年にバイデン政権が誕生してから、「修理する権利」への対策が強化されています。2021年7月にはバイデン大統領の命令により、アメリカ連邦取引委員会(FTC)が「修理する権利を制限するメーカーの慣行に対する法的措置を強化する」という声明を発表(*5)。それを受け、ニューヨークやミネソタの州議会が「修理する権利」に関する法案を可決しています(*6)(*7)。

IT企業の対応

米国政府の動きの背景には、米国内に本社を置くグロ―バルなIT企業が「修理する権利」への対処を世界各地で市民から求められ、無視できない段階になっていたという事情もありそうです。しかし「修理する権利」を守るよう同政府から主張された当初は、企業秘密の流出や予期せぬ事故の可能性などの理由から、多くのIT企業が対策に消極的でした。

こうした中、投資家からの声を受け止め、大手IT企業として最初に対策に乗り出したのは、マイクロソフトです。2022年4月に、投資家擁護団体のAs You Sowが提出した「修理する権利」に関する要望書に応じ、2022年末までに消費者の修理の選択肢を増やすことで合意しました(*8)。これに続き、アップルやグーグルも施策を打ち出し、現在、欧米ではスマホやタブレットなどの修理が気軽にできる状況になりつつあります。また、修理のしやすさに配慮したものづくりも進められています。

「修理する権利」の課題と、今後の展望

「修理する権利」の普及には、難しさもあります。大きな課題は、企業側の知的財産の保護です。企業秘密が流出する恐れがある、サイバーアタックの原因になる、製品開発の参考にされるといった、企業側からの反対意見も根強いです(*9)。これに対しアメリカ連邦取引委員会(FTC)は、国内の著作権法を根拠に「知財権の濫用は第三者による修理への障壁を作り出し、競争を阻む可能性がある」との見方を示しながら反論しています。さらにFTCはその考えを行動に表し、法改正や規制を通じて「修理する権利」を全面的にサポートしています。企業からの反発はありつつも、「修理する権利」は今後さらに浸透していくでしょう(*10)。

「修理する権利」が広まれば、修理が必要になった時の選択肢が増え、より安く手軽に修理ができるようになり、製品寿命が長くなります。さらに、開発段階から修理のしやすさを意識した製品が増えるという効果も期待できます。気候変動対策のカギの一つであるサーキュラーエコノミーを実現するためにユーザー、政府、企業が一丸となって「修理する権利」の重要性を認識し、世界中で広めることが求められています。

グリーンIT編集部
グリーンIT編集部
リユースIT業界の最新情報を発信する「グリーンITブログ」を掲載。
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