
欧州全体の動き
欧州には、欧州委員会(European Commission:EC)で2008年に定められた「グリーン公共調達(Green Public Procurement: GPP)」という基準があります。これは購入による環境への影響の軽減を目的とした基準で、商品、サービスや工事における公共調達の手順に組み込むことができます。コンピュータに関しては「Voluntary GPP Criteria(任意基準)」があり、EU各国はその基準を参照しながら公共調達を実施しています(*1)。
先進事例①アイルランド
欧州のIT先進国でデータセンターハブとしても知られるアイルランドでは、コンピュータの修理やリサイクルも盛んに行われています。2024年10月には、Amazonが米国以外で初となる「リバースロジスティックスセンター」をダブリンに開設し、データセンターで使用したIT機器のリユース・リサイクルを一層推進する方針を示しています(*2, *3)。
政府も、リユース品の調達に積極的に取り組んでいます。具体的には、より環境に優しい購入を推進するための、グリーン公共調達戦略および行動計画(“Buying Greener” Green Public Procurement Strategy and Action Plan)を策定しました。2025年までに、調達されるICTエンドユーザー製品の8割が「再生品である」「環境関連の認証を取得している」といった基準を満たすことを目指しています。
2024年にはアイルランドの公共支出省、国家開発計画実施および改革局が、イギリスのITAD事業者であるCircular Computing社と最大3,000万ユーロ相当の契約を締結。4年にわたり、年間約15,000 台の再生ノート PC を調達していく予定です(*4)。
先進事例②オランダ
オランダ政府は、2019年から「影響力のある調達(Procurement with Impact)」と呼ばれる調達戦略を採用しました。ICT関連の公共調達については独自の基準を設け、2021年からは一定のスコアを満たしたものを調達しています。チェック項目の1つには「再整備されたデバイスの 2度目の使用(Reinstatement devices 2nd life)」が入っています。リユース品を選ぶことでスコアが上がるという仕組みを導入することで、リユース品の活用を促進しています(*5)。
さらに政府は「Maatschappelijk Verantwoord Inkopen(社会的責任調達)」に関する調達基準を参照できるウェブサイト上のツールを開発しています。このツールでは製品ごとに公共調達の基準に関する文書が見つけられるようになっており、自治体などが個別の調達に対してサステナブルな基準を設けたいときに、難易度を加味しながら基準をカスタマイズできる仕組みとなっています。この中には、ICT機器の調達の際にリユース品を指定する基準も含まれています。
先進事例③英国
英国では、政府が積極的にグリーン公共調達を推進しており、公共部門における調達プロセスで環境負荷を減らすために、リユース品やリファービッシュ品のIT機器の利用が推奨されています。
過去の記事でも取り上げたように、2022年には英国の硬貨製造を担う王立造幣局(The Royal Mint)が、サステナブルな運営を行うための施策の一環として約70台のリユースPCを導入しました。また、ブリストル市議会は脱炭素を目指し、数年前から市議会でリユースPCを使用しています。
こうした動きは、今後ますますの進展が期待されます。2022年には英国政府が「デジタルサステナビリティ・アライアンス(UK Government Digital Sustainability Alliance:GDSA)」を発足。サステナブルな経営を目指す関係企業や団体をメンバーとして迎え、ICTおよびデジタル分野におけるサステナビリティを推進するための政策提言と議論を行っています(*6)。GDSA内のサーキュラーエコノミーのワーキンググループでは、持続可能なICT環境の構築に焦点を当て、埋め立て廃棄物ゼロに向けた取り組み、リサイクル材料の使用増加や、ICT 機器の再製造と改修の促進を目指しています(*7)。
欧州の今後
資源不足や気候変動問題の深刻化を背景に、環境と経済性を両立させるモデルとしてサーキュラーエコノミーの必要性は高まっています。すでに先進事例が数多く出ているなか、公共調達において安全性を確保したうえでリユース品を使用する動きは、欧州でますます活発化されていくでしょう。