CO2排出量の算定については少しずつノウハウが蓄積されているものの、資源循環についてまだまだこれから、という企業も多いのではないでしょうか。資源循環についても、可視化のための指標が公表されています。本ブログでは、サーキュラー移行指数(Circular Transition Indicators/ CTI)をご紹介します。
CTIとは
CTIは、サーキュラーエコノミーの考え方に沿って、できるかぎり廃棄物を出さず資源を再利用する「循環性」について、企業が自己評価するための指標です。WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)および加盟企業26社によって2020年に策定されました(*1)。2024年時点でv4.0までアップデートされています。
2024年4月に発表されたエレクトロニクス版の特徴は、CTIの対象製品のうち、電子機器に対象を絞って作られていることです。冊子は約150ページにわたり、CTIの概要や方法を伝えています(*2)。
CTI エレクトロニクス版の読み方と、実際の計算・活用法
エレクトロニクス版は2つのパートに分かれており、パート1ではCTI全体の算定手順について、パート2では原材料の抽出、製品の製造から使用、再利用やリサイクルといったバリューチェーンにおいて企業がどこに着目するべきかについて解説しています (*2) (*3)。例えば電子機器メーカーは「製造」の項目に、電子機器の小売店は「流通と小売」の項目にフォーカスすることが推奨されます。企業は自社のデータをもとに循環性を算出し、改善目標の設定やその後のモニタリングを実施できます。
今回は例として当社、株式会社ゲットイットのITAD事業における「マテリアル・サーキュラリティ率(全体の資源の循環性)」を算出してみます。手順として、まずは買取りをしたIT機器に対し再生可能な資源の割合を示す「サーキュラー・インフロー率」を計算します。続いて、販売や廃棄を通じて出ていったIT機器のうち、資源循環が可能である割合と、実際の資源循環率を掛け合わせて「サーキュラー・アウトフロー率」を算出します。最後に、これらの加重平均により全体の循環性を数値化し「マテリアル・サーキュラリティ率」を算出します(*4)。
①サーキュラー・インフロー率の算出
企業に入ってくる材料や製品について、新品であればリニア・インフロー、すでに使われたマテリアルであればサーキュラー・インフローとしてそれぞれの割合を計算します。ゲットイットのITAD事業において、入荷するIT機器はすべてすでに使われたものであるため、サーキュラー・インフロー率は100%となります。
②サーキュラー・アウトフロー率の算出
アウトフローでは、製品の販売や廃棄など何かしらの形で企業から出ていくフローについて検討します。ITAD事業で扱っている電子機器は、部分的に解体可能であり資源循環可能性が高いとみなされます(*3)。パソコン3R推進協会によると、2022年度のデスクトップパソコンの資源再利用率は79.7%でした(*5)。これにならい、ITAD事業で扱う電子機器の資源循環可能性を仮に79.7%とします。CTIのマニュアルによると、排出されるマテリアルが2回目の寿命においても同等の機能を持つ場合には、そのアウトフローはサーキュラーであるとみなされます。一方リサイクルによりダウンサイクルされる場合には、リニア・アウトフローとみなされます。2023年度のITAD事業におけるリユース率は87%でしたので、実際の資源循環率は87%とします。この2つの数字を掛け合わせ、サーキュラー・アウトフロー率は69.3%となりました。
③マテリアル・サーキュラリティ率の算出
①②の数字の加重平均を計算します。製品群がいくつかある場合には、それぞれの重量を加味した重みづけを行いますが、今回の試算では重量については考慮せず、単純にインフロー=アウトフローと仮定しそれぞれを50%として計算します。
(100%x50%)+(69.3%x50%)=84.7%
2023年度のITAD事業のマテリアル・サーキュラティ率は、84.7%という結果になりました。
CTIの活用事例
最後に、CTIを活用した企業事例を紹介します。
①ヒューレッド・パッカード(HP)の事例
ヒューレット・パッカードはサーキュラーエコノミーに関する目標の一環として、2025年までにパーソナルシステムとプリンターで消費者使用後の再生プラスチックを30%利用する、という目標を設定しています。これにより、CTIフレームワークで示されるサーキュラー・インフロー率を上げようとしています(*6)。
②Dustinの事例
スウェーデンのIT企業Dustinは、耐久性のある製品を使用し、再利用とリサイクルを繰り返すことで電子廃棄物を最小限に抑えるクローズドループ(閉鎖型)のビジョンを掲げています。そのビジョンを実現し、CTIの評価を上げ、より循環型の仕組みを運営するために、製品の回収プログラムを導入しました。顧客や関係者が製品を修理やリサイクルに出したり、責任ある方法で処分を行ったりする機会を提供しています(*7)。
③フィリップスの事例
フィリップスでは、医療製品の分野でCTIによる評価を実施。サーキュラー・インフロー率、サーキュラー・アウトフロー率、対象となる医療製品の回収可能性などを出し、分析、評価しました。その結果、医療製品で再生品を使う場合の材料循環性は、新製品に比べて 40% 高いことが明らかになり、再生品の利用をさらに進めています(*8)。
世界各地の企業が、CTIを使いながら循環型の仕組みづくりに取り組んでいます。「サーキュラーエコノミーへの移行は今後の社会に不可欠である」という認識が広がるにつれ、循環性を共通の指標で計測し比較することへのニーズも高まっていくでしょう。今回はその一例としてCTIをご紹介しましたが、IT機器のリユースを進めることはCTIの数値にも貢献することがわかりました。自社のサーキュラリティを高めたい、環境戦略にリユースを取り入れたいとお考えの方は、ぜひ当社にご相談ください。