サマリー
- オランダでは政策と市場環境がサーキュラーエコノミーを支え、ビジネスとして成立させる条件が整っている。
- サーキュラーエコノミーはコミュニティの発展という役割も担い、持続可能な地域づくりを推進している。
- リユースビジネスは法規制と市場動向によって強力に促進されており、日本との差が明確であった。
株式会社NTTデータグループ
コーポレート統括本部サステナビリティ経営推進部グリーンイノベーション推進室
永谷 奈緒さま
株式会社ゲットイット
執行役員 エンタープライズ事業部 事業部長
新垣 一也
株式会社ゲットイット
エンタープライズ事業部 営業部門 ICTビジネスユニット 第二部 部長
中島 聡美
株式会社ゲットイット
C&R部門 マーケティング担当
武 由希子
6/23(日) | 出国 |
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6/24(月) | オランダの企業・団体を視察 ①Closing the loop ②De Ceuvel |
6/25(火) | オランダの企業・団体を視察 ③CTC IT Solution ④Circular Hotspot |
6/26(水) | 展示会・カンファレンス参加 ⑤E-waste World |
6/27(木) | 展示会・カンファレンス参加 ⑤E-waste World |
6/28(金) | 帰国 |
①Closing the loop訪問
アムステルダム発のスタートアップ。アフリカで回収された携帯電話をヨーロッパで適切にリサイクルし、その一連の権利をオフセットとして販売する。大手携帯電話事業者のボーダフォン等と、One for Oneというプロジェクトを進めている。これは、消費者が携帯電話を1台購入するごとに、アフリカで1台の携帯電話を回収しリサイクルするというもの。
URL:https://www.closingtheloop.eu/our-service
武 1社目、Closing the loopはどうでしたか?
新垣 サーキュラーエコノミーをきちんとビジネスとして成立させていることが印象的でした。同じようなビジネスを日本でやっても果たして成り立つのかなと。Closing the loopがビジネスとして成り立っている理由はどこにあると思われますか?
永谷 コンセプトの打ち出し方や伝え方が非常に上手でしたよね。One for Oneはとてもわかりやすいなと思いました。あとは、オランダの国の政策とビジネスがマッチしていて、このような取り組みに対して企業が対価を支払う土壌ができている点も違いだと感じました。日本ではやらなければいけないという機運・プレッシャーがまだそこまでないですよね。
武 創設者のJoostさんは、もともと携帯電話のリセールビジネスをされていたそうで、ルーツがゲットイットと似ている点も親近感を持ちました。数年前に同社からオフセットサービスを購入しており、その際にオンラインでやりとりしていたので、今回対面でお会いすることができて嬉しかったです。
②De Ceuvel訪問
De Ceuvelは、アムステルダム北部にある持続可能な都市開発の実験的プロジェクト。もともとは汚染された造船所の跡地を再生するために始まった。特定の植物を使って土壌中の有害物質を除去する「ファイトレメディエーション」や、魚を飼育しながら水耕栽培を行う「アクアポニックス」が行われている。古い船舶をリフォームしたレンタルオフィスがあり、地元住民や訪問者が参加できるワークショップやイベントも定期的に開催されている。
URL:https://deceuvel.nl/en/
武 De Ceuvelでは、起こしてしまった過去のマイナスをどうプラスにできるかに取り組む姿勢が印象的でした。サーキュラーエコノミーにとって、既に消費され減じられたものの価値をいかに回復できるか、というのが重要なテーマなのだということを学びました。
永谷 ここでの取り組みは、「サーキュラーエコロジー」と呼ぶのがふさわしいと思います。「サーキュラーエコロジー」から「エコノミー」に発展させられるものはないか実験をしているという印象でした。そこに対してアムステルダム市がお金を払っているというのもすごい。サーキュラーエコノミーで覇権を取っていくというオランダの本気を垣間見た気がしました。サーキュラーエコノミーを地域にどう浸透させるか、という観点で取り組んでいるところも面白かったです。
新垣 ちょうど地域の子供が、シェアオフィスにドラムを習いに来ているところでしたよね。サーキュラーエコノミーがコミュニティとして外に広がっていく動きは興味深いですが、一方で意識の高い人が中心だなという感覚もありました。ガイドをしてくれたマイクさんも、ここでの取り組みに興味を持ってくれる人は白人が多く、もっと多様なバックグランドを持った人に関わってほしいという思いを語ってくれました。
③CTC IT Solution訪問
CTC IT Solutionは、IT機器の買取りやデータ消去を行うITAD事業者。また、HPEのオフィシャルリセーラーとして、PCのDaaS(Device as a Service)サービスを展開している。オランダでは不要になったIT機器をリユース前提で売却するのが一般的であり、近年ではメーカーがリユース事業を拡大させていることから、引き合いが増えている。2004年設立、2022年よりCircular IT groupの傘下。
URL:https://ctc-itsolutions.nl/en/
新垣 メーカーとの関係性が非常に強い会社でした。オランダを始めヨーロッパでリユース品への需要が高まり、メーカー側からリユース品のビジネスを一緒にしたいというリクエストがあるということでしたね。
永谷 法律の影響が大きいのではないでしょうか。ヨーロッパではフランスやイギリスなどを中心に購買条件にリユース品を含む動きがあり(※1, 2)、今後も加速するだろうなと感じました。日本は法律ができたあとのスピード感は非常に早いですが、そこに至るまでに時間がかかりますよね。
中島 ICT機器を売却(リユース)することが一般的になったのは大体10年前くらいからというお話を聞き、やはり日本は一回り遅れているのだなと思いました。ただ、この流れは確実に今後日本にもやってくるのだろうなということも感じました。
④Circular Hotspot
サーキュラーエコノミー促進の目的で設立された財団。オランダがサーキュラーエコノミーの先進国となった背景やEUにおけるサーキュラーエコノミーの最新情報について学んだ。下記はその例。
・EUのLaw against planned obsolescence(計画的陳腐化防止法): 製品の寿命を意図的に短く設計することを禁止する法律
・フランスのAnti-Waste Law(反浪費法):売れ残った商品を廃棄せずに再利用や寄付を行うことを義務付ける法律
・二次流通するモノに対して、消費税をかけるべきなのか?という議論もある
URL:https://hollandcircularhotspot.nl/
武 サーキュラーエコノミーについての座学とディスカッションの時間でしたね。
新垣 ヨーロッパでは、リユース市場の拡大を後押しする重要な規制や指針が次々に生まれていることを学びました。同じ業界の企業と協力し、政府と対話することはとても重要ですね。政治と日々自分が関わるビジネスがどのように関係するのか、あまりイメージを持っていなかったのですが、そのつながりをあらためて感じるきっかけになりました。
永谷 オランダの政策についていろいろと教えてもらいました。広くヨーロッパで何をしているかについての情報はそれなりに入ってきますが、オランダが何をしたいのかは日本にいるとなかなかわからないので、学びが多かったです。例えば、オランダが2050年までにサーキュラーエコノミー100%を目指していることは、ここで聞かなければ知りませんでした(※3)。
中島 オフィスが入っている建物は古い温水プールを改装したもので、別の建物で使用されていたガラスを二次利用していたり、廃棄される予定だった観葉植物を育てていたりと、非常にクリエイティブな空間でした。
⑤E-waste World
E-waste World Conference & Expo 2024 は、リサイクル会社、原材料サプライヤー、エレクトロニクス製造業者、ITAD企業等、電子機器に関わるサプライチェーン全体が集まり、最新のイノベーションとソリューションを紹介するグローバルイベント。
URL:https://ewaste-expo.com/
“Circulra Electronics”というカンファレンストラックでは、大手IT機器メーカーやITAD事業者、販売店など様々な立場のプレイヤーが集い、情報収集・情報交換が行われた。ゲットイットからはマーケティング担当の武が、ITAD trend in Japan -toward sustainable computing と題してプレゼンを行った。
武 オランダからドイツのフランクフルトに電車で移動し、展示会とカンファレンスに参加しました。
中島 展示会には日本人の方も結構いらっしゃって、情報収集されていましたね。「修理する権利」については、具体的に修理のための手順書が公開されていたり、それを元に修理のワークショップが開かれたりしていて、修理が当たり前になりつつあることを肌で感じました。
新垣 メーカーの方も多く、メーカーがサーキュラーエコノミーについてどのような取り組みを行っているのか、またこれから行おうとしているのかについて知ることができました。
永谷 3つあったEXPOの中で一番盛り上がりを見せていたのがバッテリーでした。新しいバッテリー規制の施行にあたって(※4)、バッテリーをどう循環させ環境負荷の少ない形でリサイクルさせるのか、その際のモノとデータのトレーサビリティをどう担保するのか、盛んに議論がなされていました。この波が次に何に波及するのか、E-wasteなのか、まだわかりませんが注視する必要がありますね。
武 私は今回カンファレンスでの発表があったので、それ以外はあまり記憶がなく・・(笑)。私のプレゼンテーションでは、同業やメーカーの方を中心に30名くらいの方に聞いていただき、質問も多くいただきました。日本のITAD市場への関心は高いと感じました。これから日本にもグローバルなプレイヤーが増えてくるのではと予想します。
まとめ:今回の旅で得たもの
永谷 サーキュラーエコノミーの定義をずっと考えていたのですが、サーキュラーってとても広いなという結論に至りました。地域一体型のエコロジーもあれば、一部を取り出してビジネスにすることもできる。このようなサーキュラーの動きが今後いろいろな業界に広がり、さらに面白くなるんだろうなと感じました。わくわくしています。
中島 ゲットイットではITADを推進し、IT機器循環のトレーサビリティを高めていこうとしていますが、そこに価値を感じていただけるお客さまはまだ一握りです。どうすれば選んでいただけるのかを考えることも多いのですが、今回のツアーでヒントがたくさんありました。ハードルが高そうなヒントも多かったですが・・。私たちが掲げるサステナブル・コンピューティングの価値が認められるのは、もしかしたら20年後かもしれません。でも、20年後に求められることを今やっていると思いながら仕事をするだけでも違うなと感じています。
新垣 当たり前のことですが、ビジネスと環境の両軸で進めていく必要があると感じています。今回のツアーでの経験と知識を踏まえて、今後の商談においては環境という切り口でも語れるようになったと思います。
武 今後、リユース品の調達や修理して長く使い続けることがもっと当たり前の選択肢になるためには、政治が果たす役割が非常に大きいなと感じました。仲間を増やし、他社と協力しあいながら影響力を高めていきたいと思いました。Curcular Economy Studyは、今年初めての取り組みでしたが、NTTデータグループの永谷さんにご一緒していただくことで、「仲間を増やし他社と協力する」の一歩になったのかなと感じています。あらためて、ありがとうございました。
一同 ありがとうございました。