2021年04月26日
「グリーンIT 6G」〜誰一人取り残さないインクルーシブなIT社会に向けて〜

大企業、中小企業、スタートアップを問わず、日本でも、廃棄物を出すことなく資源を循環させる新たな経済システム、サーキュラーエコノミーへの関心が急速に高まっています。環境問題への確実なコミットと、経済成長の両立を同時に叶える循環型社会の形成は、必ずや社会をウェルビーイングな未来へ導くと、私たちゲットイットも確信しています。弊社代表廣田優輝がITハードウェア領域でサーキュラーエコノミーを加速させるための仕組み、「グリーンIT 6G」のプラットフォーム構築を始動した理由を率直に語りました。

すべてのステークホルダーにメリットをもたらす「グリーンIT 6G」

ゲットイットが目指す新たなプラットフォーム、「グリーンIT 6G」プロジェクトは、IT機器のライフサイクルを、サーキュラーエコノミーのサイクルに落とし込むことによって、私たちと関わるすべてのステークホルダーにメリットをもたらし、これまで以上に地域社会、地球環境に貢献していくためのアクションです。

数年前まで、ITハードウェアのライフサイクルは非常に短命でした。企業は、メーカーが生産したIT製品(PC、サーバー、ストレージなど)を導入し、5年から7年の保守期間の終了とともに不要になったIT機器を処分し、新たなシステムに入れ替えるのが当たり前。というよりもIBMやHPEがEOSL保守、第三者保守のサービスを日本に持ち込む2010年頃までは、日本企業にはこの選択肢しかなかったのです。

メーカーが定めたサイクルに従って新システムを導入する最大のメリットは、生産性を向上させる機能が付加されていることです。そうであれば、ユーザー企業はシステム更改によって革新的なサービスを創出する機会だととらえることもできるし、あるいは思い切ってビジネスモデルを変革し、DXによって他領域への進出を目指すきっかけになるかもしれません。

しかし、製品にそこまでの革新を求めていないユーザー企業にとっては、その機能は無用となるでしょう。ともすれば、コスト面、業務効率の面でも大きな負担になるかもしれません。欧米の企業はそのように判断すれば、第三者保守、EOSL保守を選びます。

いまなお日本では、第三者保守のサービスは認知度が高いとは言えません。その理由は明解です。そもそもシステム導入の段階から欧米とは違うからです。

IT機器に限らず、外国ブランドの家電、電気製品には無償で保証がついてくることは基本的にはありません。欧米では、保守と保証は切り分けられて考えられているので、システムを導入する時点で、正規プロバイダーから保証を買うか、それとも第三者保守を選ぶか、考慮する視点があるのです。

日本の製品には、1年保証、3年保証がついてくるので、日本人にはそもそも保証を買うという発想をもつ必要がないのです。

日本のほうがユーザーに寄り添ったサービスを提供していると思われがちですが、実は経済合理性があるとは言い切れません。その後にITハードウェアを運用していく上でさまざまな問題が顕在化してくる可能性があるからです。

たとえば、保証期間中にハードウェアに何かしらの問題が起きたとします。システムを形成するコンピュータパーツの入れ替えが必要になったときに正規プロバイダーに在庫がなければ、復旧までに時間が掛かります。実はこのタイムラグによって業務に支障をきたすケースは少なからずあると言われています。意外に思われるかもしれませんが、私たちゲットイットのような第三者保守ベンダーのほうが、そのメーカーの最新IT機器の予備のパーツを在庫としてストックしている場合もあるのです。

さらに、正規プロバイダーと第三者保守ベンダーでは保守に掛かる費用が違います。欧米の企業はあらゆるケースを想定するので、システムの導入時から第三者ベンダーを選ぶのは合理的な判断でもあるのです。
すべてのステークホルダーにメリットをもたらす「グリーンIT 6G」廣田 優輝

 

サステナブルなIT機器の運用を可能にするEOSL保守とITADプロセス

脱炭素社会の構築に向けて世界が一丸となって取り組むなか、旧来のIT機器のライフサイクルにはさらに大きな問題があります。日本ではメーカーの保守期間が切れると、機密データを新たなシステムに移行し、古いシステムから機密が漏れないように物理的な手段でIT機器を破壊する慣習がありました。メーカー側は金、銀、銅などの金属類を取り出し、リサイクルに回します。こちらも何となくサーキュラーエコノミーにコミットしているように思われるかもしれません。しかし、一度破壊したIT機器を元に戻すことはできないのです。

日本がゼロウェイスト社会を目指していくためにはリサイクル以前に、優先されるべきはずのリデュース、リユースという視座をもつことがこれからは一層大切になるでしょう。
第三者保守の企業は、その課題を解決する役割を担うスキルが求められます。

実は、破壊されるIT機器のほとんどがリデュース、リユース可能です。メーカーが保守や製造を終了しても、第三者がそのメーカーのコンピュータパーツを十分にストックしていれば、きちんと保守もできます。ソフトウェアの更新ができないという弱点はありますが、使い慣れたシステムをコンディションのよい状態で気持ち良く使用してもらうことはできるのです。これがいわゆるEOSL保守です。既存のシステムを延伸しながら、最適な時期を選んで最新システムに切り替えられるので、ここ数年、一気に注目度が高まっています。さらに最新システムを導入するときに不要になったIT機器を第三者ベンダーに売却すれば、新たな投資への負担も軽減されます。

私たちゲットイットの場合は、「使えるものは長く使う」「使い終わったものは次につなげる」をコンセプトとした持続可能なITハードウェアの運用を「サステナブルコンピューティング」と称し、保守業務に必要な知見と技術を磨いてきました。

たとえば、Aという会社が使用しなくなったIT機器を買い取ったゲットイットが適切な方法でリユースし、Bという新たな会社に売却するケースでは下記のプロセスを踏んで、新品に近い状態に復元します。

まず、コンプライアンスの遵守を前提として極力環境に負荷をかけずにA社の機密情報を完全に消去します。買い取ったIT機器はゲットイットのサーバー鑑定士やシステムエンジニアが機能検査を行い、何かしらの障害があり、システムが稼働しない場合、構造分析をして原因を突き止めます。復旧した後には何度も稼働試験を繰り返し、機能的に間違いなく動くことを確認してから新規のお客さま、B社にお受け渡し保守を開始します。

ちなみに、こうしたIT資産の運用、管理、処分までのプロセスはITAD(読み方:アイタッド IT Asset Disposition)と呼ばれます。サステナビリティにコミットしながら、最適なIT投資につながるため、欧米では重要な長期事業戦略として位置付けられています。

ゲットイットは、あらゆるメーカーの機種に対応できるようにメンテナンス技術を磨いてきました。こうしたノウハウを蓄積し、クライアントの想像を超えるサービスの提供を、現在も目指しています。

誤解して欲しくないのですが、私はメーカーやそのユーザー企業の姿勢を糾弾したいわけでは決してありません。そもそも日本では数年前まで第三者保守のサービスはメジャーではありませんでしたし、メーカーが自社の売上の向上を優先し、株主を満足させることを考えるのは、資本主義社会の鉄則でもあるからです。

しかし、近年、世界ではマルチ・ステークホルダー・プロセスを重視し、ESG、CSR、SDGsの取り組みに価値を見出す企業が増えています。金融機関もエンドユーザーもこうした企業の活動に共感します。社会の潮流が空気を一変させたのです。

というのは4、5年ほど前まで、中古のIT機器は消耗が激しく、不安定で壊れやすいという固定観念が日本市場には色濃く残っていました。海外企業や外資系企業は中古のIT機器を積極的に求めてくれるのですが、日本ではコストカットのために仕方なく、いま使用している既存のシステムの延伸を望むという企業のご相談を受けてきました。ですので、それほど期待もされていなかったと思います。

それでも私たちは、自分たちのサービスがクライアントの「IT機器の困りごと」を解決できると信じ、第三者保守の事業に力を注いできました。

ビジネスの潮流が変わってきたこと。中古IT機器が新品同様にストレスなく使用できると理解されてきたこと。ITADプロセスの重要度が高まってきたこと。三つの変化によって、日本企業の固定観念は年々、払拭されつつあります。

実際に当時といまではだいぶ景色が変わって見えます。新品ではなく、積極的にリデュース、リユース製品を求めてくるクライアントが増えていることを実感できるのです。

いま素直に思うのは、やはり、サーキュラーエコノミーは可能性に満ち溢れているということです。私だけでなく、ゲットイットの社員全員が同じ思いを共有しています。だからこそITハードウェア領域でさらに循環型社会を加速させる最善の機会がいまだと判断し、「グリーンIT 6G」のプラットフォームを立ち上げる決心をしたのです。

ITハードウェアのライフサイクルの推移

 

E-Wasteの問題に向き合うために必要なこと

繰り返しますが、「グリーンIT 6G」のプラットフォームは、すべてのステークホルダーにメリットをもたらす仕組みです。

サーキュラーエコノミーは、これまでのビジネスの延長線上ではとらえることはできません。地球の持続可能性を第一のプライオリティに解のない正しい未来のあり方を定義し、その未来のためにいま何をすべきかをバックキャスティングして、企業は主体的に活動指針を決めることが前提になります。

従来の資源の採掘、生産、消費、廃棄までのリニア型モデルは一新しなければなりません。廃棄対象物を資源として活用するのが肝となるので、3R(リデュース、リユース、リサイクル)、シェアリングなどのプロセスのなかからイノベーションの種を見つけなければならないのです。

単独企業の取り組みだけで発展するシステムではないので、ITハードウェアの領域でも国境、業界、業種の壁を超え、価値を共有できる企業や団体とのオープンイノベーションがなにより重要になるでしょう。

たとえば、メーカーと第三者保守ベンダーが対立するのではなく、断片的であっても協働できれば、ユーザー企業の体験価値は著しく向上するでしょう。まず、ユーザー企業は既存のサイクルに縛られることがなくなり、必要だと判断したときに最新のシステムに入れ替えることが容易になります。また、いままで使っていたシステムを破壊するのではなく、適切な方法で機密情報を消去し、ITAD業者に売却すれば、大幅なコストカットにもつながります。イノベーションを喚起する攻めのIT戦略に重きを置くことも可能となるでしょう。
さらにそのIT機器を別のユーザー企業に受け継ぐことでサステナビリティにコミットしたKPIが設定できます。あるいはそのシステムを買い取った第三者ベンダーが他企業、他団体とのオープンイノベーションによって、PCスキルを必要とする小学校や高齢者施設、あるいは開発途上国の人々に寄付すれば、社会貢献にも寄与できます。

今後、私たちITハードウェアを扱う者たちが対峙しなければならない最大の課題であるE-Waste(イーウェイスト 電気、電器製品の廃棄物)の削減に向けて、端緒を開くきっかけにもなるのではないでしょうか。

国連大学と国連環境計画のレポート、『Global E-waste Monitor 2020』は、2030年の世界のE-Wasteは、2019年の5,300万トンから7,400万トンへ膨れ上がると予測しています。

E-WasteはCO2を排出するだけではなく、有害物質も含まれているので取扱いを誤ると人間の健康を損なうこともあります。先進国では、リサイクル技術があるので、使えなくなった機器から貴金属を回収し、アップサイクルにつながる革新的なビジネスも生まれるかもしれません。一方リサイクル技術をもたないアフリカ、アジアの開発途上国では、テクノロジーの普及によって、むしろ環境汚染がさらに深刻化するかもしれません。

それを防ぐには先進国の企業は、開発途上国の持続可能な成長にもコミットする必要があります。困難な挑戦かもしれませんが、自社の製品を途上国に提供するときには、生産、リデュース、リユース、シェア、売買、リサイクル、そして最終手段である廃棄までのトレーサビリティを強固にすることで、誰一人取り残さないインクルーシブなIT社会が実現するのではないでしょうか。

私たちゲットイットは、「グリーンIT 6G」のプラットフォームを通じて、少しでも世界がウェルビーイングになるように微力ながらも貢献したいと考えています。

廣田 優輝