
円安基調の長期化や、AI需要の拡大に伴うメモリ需給の逼迫によるITハードウェア価格の高騰、半導体不足を背景とした調達リードタイムの長期化、そしてESG対応の要請。企業を取り巻くマクロ環境が大きく変化するなか、「保守期限が来たら全面刷新」という従来の直線的なIT運用は、見直しが必要な局面が増えています。本記事では、ITインフラ資産の延命・リユース・適正処分に関わる循環型の運用設計を「サーキュラーテック」と位置づけ、その定義から導入メリット、実践ステップまでを解説します。
サーキュラーテックとは?ITインフラにおける定義と基本概念
サーキュラーテックとは、IT機器の再利用・再流通・修理・再資源化などを通じて資源を最大限に活用し続けるための技術およびビジネスモデルの総称であり、ISO 59004等の国際規格やサーキュラーエコノミーの原則を基盤とします。
なお、サーキュラーテックという言葉は一般に、サーキュラーエコノミーを支える幅広い技術・ビジネスモデルを包括的に指します。本記事ではそのうち、ITインフラ資産の再利用・再流通・適正処分に関わる運用設計に焦点を当てます。
従来のIT運用では、「調達→導入→保守→廃棄」という直線型(リニア)のモデルが一般的でした。メーカーが保守終了(EOSL)を宣言すると、まだ問題なく稼働している機器であっても、刷新を検討する必要が生じます。多くの企業にとって、それが当たり前の運用でした。
しかし、この直線型モデルには構造的な問題があります。メーカーのロードマップに投資タイミングを左右され、まだ使える資産が廃棄に回り、調達のたびに高騰する新品価格を受け入れなければなりません。サーキュラーテックは、この「一方通行」を「循環」に変える考え方です。
具体的には、IT資産のライフサイクルの各段階で「延命(第三者保守)」「再利用(リユース調達)」「適正処分(ITAD)」の選択肢を組み合わせ、資産の価値を引き出しながら調達負荷と廃棄負荷の両方を低減します。
サーキュラーエコノミーとの違い

サーキュラーテックは、近年注目を集める「サーキュラーエコノミー(循環経済)」と名称が似ていますが、対象範囲が異なります。サーキュラーエコノミーは、製造業・建設・食品・ファッションなど産業横断で資源の循環利用を目指す上位概念です。欧州委員会のCircular Economy Action Planに代表されるように、経済システム全体の転換を志向しています。
一方、本記事で扱うサーキュラーテックは、この循環経済の原則をITインフラ運用の実務に落とし込んだ実践的なアプローチです。対象となるのは、サーバー、ストレージ、ネットワーク機器、PC端末といったITハードウェア資産です。これらの資産について、調達から運用、保守、処分までのライフサイクル全体を、循環型の考え方で再設計するものとして位置づけています。
つまり、サーキュラーエコノミーが「資源循環全体を捉える経営・社会の枠組み」であるのに対し、サーキュラーテックは「その原則をITインフラ運用に落とし込んだ実務的な運用モデル」と位置づけられます。
なぜ今、従来のIT運用を見直すべきか?コスト膨張・調達リスク・ESG
サーキュラーテックが検討すべき選択肢から経営課題として意識されやすくなった背景には、3つの外部圧力があります。第一に、ITハードウェアの価格高騰と長納期化。第二に、特定メーカーへの依存がもたらす調達リスク。そして第三に、ESG・サステナビリティ開示への対応要請です。
加えて、脱炭素とIT分野の関係も無視できなくなっています。国連の「Global E-waste Monitor」によると、世界の電子廃棄物は年間6,000万トンを超え、今後も増加傾向にあります。欧州では製品のエコデザイン規制が強化され、日本でも経済産業省の資源循環政策がIT機器を対象に含み始めました。希少金属の地政学的リスクも加わり、「環境対応」は単なるCSR活動ではなく、調達戦略そのものに直結するテーマになっています。
本章では、このうち特にIT予算への影響が大きい「コストと調達の課題」を掘り下げます。
ハードウェア価格高騰と長納期化の現状

2020年以降の半導体不足を契記に、サーバーやネットワーク機器の調達環境は大きく変化しました。足元では、AI向け需要の拡大などを背景にDRAMを中心としたメモリ価格の上昇圧力が強まり、ハードウェアメーカー各社でも、短期間で価格改定が相次ぐ局面が見られています。実際、2026年初にはDRAM価格が急伸し、サーバー向け構成のコストを押し上げる要因として指摘されています。
さらに、一部のエンタープライズ向けサーバーや関連機器では、発注から納品まで長いリードタイム(例:6か月以上)を要するケースもなお見られます。円安基調も重なるなか、同等スペック帯でも調達コストが以前より大きく上振れする事例が出ており、調達判断の難度は高まっています。
こうした状況下では、メーカーのEOSLが到来するたびに全面刷新を前提とする運用は、予算面でも事業継続面でも負荷が大きくなりやすいと言えます。「保守が切れたから入れ替える」のではなく、「本当に入れ替えが必要か」を見極めることが、IT投資の合理性を保つうえで、これまで以上に重要になっています。
メーカー依存からの脱却:IT投資判断の自由度を確保する
従来のIT運用では、メーカーが設定したEOSLが事実上の「入替え期限」として機能してきました。しかし、この構造はメーカー側のロードマップに自社の投資判断を委ねていることを意味します。第三者保守(TPM:Third Party Maintenance)やリユース調達を選択肢に加えることで、この依存構造を緩和できます。
安定稼働中のシステムを第三者保守で延命し、その間に次世代インフラの導入計画を自社のペースで策定する。あるいは、検証環境や非基幹系にはリユース品を活用し、浮いた予算を基幹系の刷新に集中投下する。こうした「選択の自由度」こそが、サーキュラーテックの実務的な価値です。
循環型ITライフサイクルマネジメントの3つの柱

こうしたサーキュラーテックの考え方をITインフラ運用の実務に体系化したものが、「循環型ITライフサイクルマネジメント」です。IT機器の調達・運用・保守・再流通・再資源化を一体で設計するアプローチであり、すべての資産を一律に刷新するのではなく、資産ごとに延命・再利用・適正処分の最適な選択肢を組み合わせて循環させる。その全体設計を指します。
循環型ITライフサイクルマネジメントの実践は、IT資産のライフサイクルを「延命」「リユース」「適正処分」の3つの柱で構成される循環型モデルとして再設計することから始まります。資産の重要度・稼働状況・ビジネス要件に応じて柱を使い分けることが重要です。以下、それぞれの概要と適用場面・注意点を解説します。
延命:第三者保守(TPM)によるシステムの長期利用
安定稼働しているシステムやバックアップ環境に対して、メーカー保守終了後も第三者保守を活用して継続運用する手法です。メーカー純正保守と比較して30〜 60 %のコスト削減が見込めるケースも多く、サーバー、ストレージ、ネットワーク機器など対象も幅広くカバーされます。
Dell、HPE、Cisco、IBM、Juniper、NetAppなど主要メーカーの機器に対応する第三者保守事業者を活用することで、刷新時期を自社の投資計画に合わせてコントロールできるようになります。
ただし、第三者保守の適用には見極めが必要です。ファームウェアアップデートが不可欠なセキュリティ要件の高いシステムや、メーカーサポートとの連携が前提となるソフトウェアライセンス体系がある場合は、延命よりも刷新を優先すべきです。
リユース:中古IT機器の戦略的な活用と調達
開発・テスト環境、オフィスPC、社内検証用サーバーなど、最新スペックが必須ではない用途に対して、適切に整備されたリユース品(中古IT機器・再生品)を戦略的に導入する手法です。新品の半額以下で調達できるケースも珍しくなく、特に半導体不足で新品の納期が長期化している局面では、「すぐに調達できる」というスピード面のメリットも大きくなります。
専門事業者の中には販売(買い切り)とレンタル(月額利用)の両方を提供しているところもあり、プロジェクト期間や予算に合わせた柔軟な調達が可能です。
品質面では、専門事業者による受入検査・クリーニング・動作検証・保証付与のプロセスが確立されていることが選定の前提条件となります。「安いから中古」ではなく、「用途に対して合理的だから中古」という判断基準が重要です。
適正処分:ITAD(IT Asset Disposition)によるデータ消去・買取・再資源化
ITAD(IT Asset Disposition)は、不要になったIT資産を「廃棄コスト」から「回収可能な価値」に転換するプロセスです。データ消去、買取り(リマーケティング)、再資源化の3つのステップで構成されます。最も重要なのはデータ消去の信頼性です。
NIST SP 800-88に準拠した論理消去、またはシュレッダーによる物理破壊を、作業ログと消去証明書で証跡管理する体制が求められます。信頼できるITAD事業者であれば、入荷からデータ消去、再販または再資源化までの全プロセスをトラッキングし、監査対応可能な証跡を提供します。
見落とされがちなのが「買取り」の経済効果です。不要な機器をITAD事業者に売却することで、処分費用の圧縮や、条件によっては売却益の創出につながる場合があります。これは、従来の「廃棄にコストがかかる」という前提を見直すきっかけとなります。
サーキュラーテックを導入する3つのメリット

サーキュラーテックの導入効果は、「環境に良い」という抽象的な話にとどまりません。経営陣(CFO・CIO)が重視する「財務」「調達」「統制」の3つの軸で、具体的な投資対効果(ROI)を解説します。
財務メリット:コスト最適化と資金化
サーキュラーテックの財務的な効果は、大きく2つの経路から期待できます。1つは、支出の抑制です。第三者保守の活用によって、対象機器や契約条件によっては、メーカー純正保守と比較して、30〜60%程度の保守費用削減が見込まれる事例もあります。さらに、刷新時期を分散・先送りすることで、大規模な資本的支出(CapEx)の一括発生を避けやすくなり、キャッシュフローの平準化につながる可能性があります。
2つ目は収入の創出です。ITADによる不要機器の売却益は、従来「廃棄コスト」だった支出を売却益に転換します。たとえば、3年落ちのエンタープライズサーバーであれば、機種やスペックによって数万〜数十万円の買取価格がつくケースもあります。この売却益をIT部門の新規投資原資に充てることで、予算の自律性が高まります。
調達メリット:サプライチェーンリスクの緩和
特定メーカーのロードマップと供給体制に全面依存する従来型の調達は、半導体不足や地政学的リスクが顕在化した2020年代において、重大な事業継続リスクとなりました。
サーキュラーテックを導入することで、「新品一択」から「新品+リユース+延命」の複線型調達に移行できます。新品の納期が6ヶ月以上かかるなど長期化する局面でも、リユース品であれば数日〜数週間など比較的短期間で調達しやすいケースがあります。また、第三者保守による既存機器の延命が「時間を買う」手段として機能し、調達難の局面でも事業を止めずに済みます。外部環境の変化に左右されず、自社のビジネススピードに合わせたインフラ構築が可能になる点が、調達面での核心的なメリットです。
統制メリット:ガバナンス強化と説明可能性の向上
ESG開示やサステナビリティ報告書への対応が求められるなか、IT資産の処分プロセスが「ブラックボックス」のままでは、説明責任を果たすことが難しくなります。ITADの適切な導入により、データ消去の証跡管理、処分先の追跡(トレーサビリティ)、再資源化率の可視化に取り組みやすくなります。これは情報漏洩リスクの低減だけでなく、社内監査やISO認証対応、ESG開示における定量的なエビデンスとしても機能します。
「環境に配慮しています」という定性的な宣言ではなく、「年間〇台の機器を適正処分し、〇%を再資源化した」という定量データで説明できる体制、それがサーキュラーテックの統制面での価値です。
よくある疑問と誤解
サーキュラーテックの導入を検討する際、現場や経営層から寄せられることの多い疑問を整理しました。
Q. サーキュラーテックとサーキュラーエコノミーの違いは?
A. サーキュラーエコノミー(循環経済)は、産業横断で資源循環全体を捉える上位概念です。サーキュラーテックは、その考え方をITインフラ運用の実務に落とし込んだアプローチであり、延命・リユース・適正処分を組み合わせてIT資産のライフサイクル全体を最適化します。
Q. 第三者保守( TPM :Third Party Maintenance)を利用するとメーカー保証は無効になる?
A. メーカーの標準保守契約が終了(EOSL)した後に利用するのが第三者保守です。そのため、メーカー保証が「無効になる」のではなく、メーカー保守終了後の代替手段として位置づけられます。稼働中で安定しているシステムの保守を継続でき、刷新時期を自社の判断で選べるようになります。
Q. ITADのデータ消去は本当に安全?
A. 信頼できるITAD事業者は、NIST SP 800-88等の国際基準に準拠したデータ消去を実施し、消去証明書を発行します。物理破壊と論理消去の使い分け、作業場所のセキュリティ体制、証跡の保管期間などを事前に確認し、自社の要件に合った体制かを見極めることが重要です。
Q. リユース品(中古IT機器)の品質は新品と比べてどうか?
A. 適切な整備・検証プロセスを持つ事業者のリユース品は、開発環境やオフィス端末など用途に応じて十分な品質を確保できます。重要なのは事業者の検証体制と保証条件の確認です。新品と同等の性能を求める基幹システム用途とは使い分けが必要になります。
Q. 環境対応(サーキュラーテック導入)はコスト増にならない?
A. 条件によっては、コスト最適化につながるケースが多く見られます。第三者保守による保守コスト削減、リユース調達による調達コスト圧縮、ITADによる資産売却益の創出など、循環型運用はIT投資全体のTCO(総保有コスト)を見直す手段となります。「環境対応=高コスト」は、適切なパートナーと運用設計があれば解消しやすい誤解です。
サーキュラーテックを自社に導入する5つのステップ

サーキュラーテックの考え方を踏まえたうえで、実際に自社へ導入する際の導入プロセスを、5つのステップで解説します。
Step 1)IT資産の棚卸し
自社のIT資産台帳を整備し、機器の種類・台数・設置場所・導入時期・現在の保守契約状況を可視化します。台帳が整備されていない場合は、ネットワークスキャンツール等を活用して現状を把握するところから始めます。
Step 2)資産の重要度分類
棚卸し結果をもとに、各資産を「基幹系(刷新優先)」「安定稼働系(延命候補)」「非基幹系(リユース・処分候補)」に分類します。この分類が、後続のステップにおける判断の基盤となります。
Step 3)EOSLスケジュールの可視化
メーカーのEOSL時期を一覧化し、今後3〜5年の保守切れスケジュールを可視化します。この可視化によって、刷新・延命・処分の優先順位と予算配分を中期的な視点で計画できるようになります。
Step 4)パートナー選定と評価
「保守対応範囲」「データ消去証跡」「再販・再資源化ルート」「SLA・監査対応」「一元管理体制」の5つの評価軸で、専門パートナーを選定・比較します。これらを一元的に管理しやすい体制があるかどうかも、運用を継続するうえで重要な観点です。
Step 5)運用ルールの策定と社内合意
資産分類の基準、延命・リユース・処分の判断フロー、パートナーとのSLAを社内ルールとして文書化し、IT部門・経営企画・CFO間で合意形成を図ります。ルールが明文化されることで、属人的な判断を排し、部門横断での運用が定着しやすくなります。
まとめ:自社の「ITライフサイクルマネジメント」を見直す第一歩として
本記事で解説した循環型ITライフサイクルマネジメントは、『環境のために我慢する』施策ではありません。ITインフラの調達・運用・処分を循環型に再設計することで、コスト最適化・調達の柔軟性・ガバナンス強化を同時に実現する、経営戦略としてのアプローチです。重要なのは、「全面的な刷新を否定しているわけではない」ということです。基幹系の刷新が必要な局面は当然あります。しかし、「すべてを一律に刷新する」という前提を疑い、資産ごとに最適な選択肢を持つことが循環型ITライフサイクルマネジメントの本質です。
株式会社ゲットイットは、2001年の創業以来25年にわたり、「使えるものは長く使う」「使い終わったものは次につなげる」という思想のもとSustainable Computing® を提唱し、IT資産の循環モデルの構築を進めてきた専門事業者です。本記事で解説した3つの柱「第三者保守(TPM)」「販売&レンタル」「ITAD(IT資産適正処分)」をワンストップで提供し、Dell、HPE、Cisco、IBMをはじめとする主要メーカーの機器に対応。延命から処分までを一元管理できる体制を国内で構築しています。
循環型IT運用への第一歩は、自社のIT資産の現状を把握することから始まります。「何が稼働しており」「何が保守切れに近づき」「何が遊休化しているのか」を整理することで、延命・再利用・適正処分の判断は進めやすくなります。保守期限の到来資産、遊休資産、廃棄予定資産の扱いに課題を感じている場合は、まずはゲットイットへご相談ください。資産の棚卸しや現状診断から、現実的な進め方をご提案します。
貴社のITインフラを「循環型」へ。3つの実践アプローチ
従来の直線的なITライフサイクルマネジメントから、資源と予算を最大限に活用する循環型へのシフト。その実践を支援する、ゲットイットの具体的なソリューションを以下にご紹介いたします。
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【柔軟な調達】リユース販売・レンタル
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