※インタビュー当日、シュークリームを差し入れしてくれた気遣いの人。休日は、子どもたちの活動をビデオにおさめて編集し、身内で上映会をするのが楽しみな良きお父さん。
普段は、フィールドサポート* として、お客さま先で故障した機器の修理を行ったり、お客さまへの提案時に、営業に同行して技術説明を行ったりしているSさん。人事部と連携して2021年に新入社員向けのIT基礎研修をつくり、講師としても携わっています。実は、この研修は社内で評判を呼び、今では既存の社員はもちろん、お客さまも参加するまでの人気プログラムに。どのような研修内容なのか。Sさんが教えるにあたって大切にしていることとは何なのか、詳しく伺いました。
※聞き手:西谷 忠和(ライター)
―――新入社員向けに、2021年に導入した『IT基礎研修』はSさんが作られたとお聞きしています。どういった背景があったのでしょうか?
ゲットイットの風土は非常にユニークです。中途社員として入った新人たちは、自ら先輩たちに働きかけて分からないことを聞いたり、自発的に調べたりして、会社や仕事を理解していきます。私も入社した時は、そうやって、ここでの仕事を学んでいきました。ただ、入社した未経験者にこの教育風土について聞いてみると、「サーバやネットワークなど、基本的な用語の意味がよく分からないまま、いろんな人にヒアリングをしていて、途中で行き詰まってしまいます」という声が増えてきました。
実際は、既存の社員たちからは「なんでも聞いてね」と言われるけれど、入社直後で会社の雰囲気にまだ馴染めていない中では、聞く勇気がなかなか持てなかったり、何を聞いて良いかが分からない人もいます。そうした声を丁寧に拾えたら、みんなもっと楽しく仕事ができるようになるんじゃないか。そんなことを人事の桐谷と雑談ベースで話をしてみると、共通した課題を持っていたので、桐谷には人事部との調整をお願いし、私は研修の具体的なプログラムの立案を担当しました。
―――どういった内容の研修プログラムなのですか?
単発研修ではなく、新入社員向けのオンボーディングに組み込もうと考えていたので、まず「楽しく学べる」ことを優先。その上で、私たちが扱っている「実機(実際の機器)」を「見て・触れて」いくことで、「うちの会社って、こんなにすごいのか」と感じてもらえる仕掛けを導入しました。参加者には目の前に並べてある実機の中身を実際に触りながら、仕組みなどを理解してもらいます。ゲットイットでは、リサイクル予定の機器を倉庫で管理しているので、初めての人でも、気を遣うことなく、自由に扱えるように壊れた機器を用いています。
本来、現場では何十万円もする機器を取り扱っているのですが、そういった機器だと未経験者は力の加減が分からずに、恐る恐る触れることになってしまいがちです。それでは、楽しんで学ぶことができないため、動く機器は別に用意して、それを見ながら参加者は光ファイバーなどを折ったり曲げたりできるように、リサイクル予定の機器を使ってもらいます。
研修は3〜5名で行います。この研修を始めた頃は、参加者10名でやったこともあるんですが、それほどの人数になると、質問するのに萎縮しちゃう人が必ず出てきます。新入社員といっても、全員中途入社なので知識レベルに差があるため、未経験の人だと「こんなこと聞いていいのかしら」と気後れしてしまうんです。そうならないように、今は知識・経験レベルを合わせるためにも、少人数で行っています。終了後には必ずみんなにアンケートをとっていて、いただいた参加者の意見やアドバイスをもとに研修をブラッシュアップしているので、内容はどんどん良くなってきています。
―――これまでどのくらいの人が受講されたのですか?
社内の半数、約70名近くが参加しています。当初は新入社員向けの研修プログラムだったのですが、口コミで広まり、既存の社員からも「受けたい」という声が上がるようになり、営業部では全員が必須で参加するようになりました。
それともう1つの大きな変化は、営業を通じて、お客さまからも引き合いをいただくようになったことです。新型コロナの影響により、新人向けの研修がオンラインになって、実機(本物)に触れる機会がなくなり困っているという課題を持つお客さまが増えてきたそうです。そこで担当の営業が、お客さまにこの研修の話をしたところ、「ぜひ若手に受けさせたい」とその場で決まりました。中には、会社見学で来社されていたお客さまが、当社の新人向けに行っていた研修をご覧になって、「うちも受けられるの?」と営業に相談され、決まったケースもあります。
現在、お客さま向けの研修は無償で提供しており、営業は、この研修を通じてお客さまの信頼をいただき次の商談につなげているようです。実際、参加してくださったお客さまからも「本物に触るのは初めての経験です」「機器の仕組みがよく理解できました」 と好評価をいただいています。
―――Sさんが研修で教える際に、大切にしていることはありますか?
まず「イメージ優先で、難しい話はしない」。そのことは徹底するようにしています。もちろんテストをしたり、評価をつけたりすることもありません。たとえば「インターネットで推しのチケットを取ろうと頑張っても、いつも争奪戦で負けてしまう、あれに勝つ方法はありますか」といった素朴な疑問が参加者からは出てきたりしますが、そういった質問も一緒に考えていきます。そのなかで、インターネットなどの仕組みや機器の役割を理解してもらうようにしています。だから、研修のプログラムやテキストを用意していますが、テキストで触れないページも出てきたりして、毎回行う研修内容は異なってきます。
もう1つ大切にしているのは、ゲットイットの文化(自律した学び)を反映していることです。こちらが一方的に教えすぎないようにしています。たとえば、新入社員研修のオリエンテーション課題で、ルータやサーバ、スイッチに関する問題が出題されます。ここでは、例として1つの調べ方を教えるものの、残りの問題については、あえて触れません。そのようにして、調べ方のコツを紹介するだけに留め、あとは自力で問題を解いてもらう。この研修では、そうした能力を身に付けるきっかけづくりを提供しています。
―――この研修を受けた後、新入社員のマインドや成長に変化はありましたか。
研修後にしかアンケートをとっていないので、その後の成長までは追えていません。この研修プログラムは、新入社員向けには研修期間3日目に行います。その後配属先にてOJT研修が実施され、徐々に独り立ちを目指すんですが、正式配属になって1年ぐらいたった社員から「もう1度、この研修を受けたい」という声が、最近増えてきました。
聞いてみると「実務をやるようになって疑問が湧いてきて、理解をもっと深めたくなった」という理由が多いです。ほぼ同じ内容の研修を2回やるのは、研修の取り組みとしてどうかと思う部分はありますが、ただ、1回目が楽しく学んで意欲を高めていくのが目的だったからこそ、「しっかりと理解したい」という前向きなマインドになって変わってきたんだと思います。
また、社員が積極的に資格取得を考えるようになったのも大きな変化の1つです。この研修では、あえて基礎理論などの小難しい内容には触れていません。しかし、テキストのいくつかの箇所には「基礎理論を学びたい方、または興味のある方は付属テキスト(資格試験用)をご参照ください」とリンク先のページを併記しており、意欲の高い人は、付属テキストを読んで、資格を取るようになってきました。現在品質検査部では、この資格の取得が必須項目になりました。
―――最後に、今後の展望があれば教えてください。
私以外にもこの研修ができる人をもっと増やしていきたいですね。参加者によってプログラムを変更したりするので、難しいとは思うんですが、もう少し内容も標準化していきたいと考えています。各部署単位で、答えられる人が一人でも二人でも増えればいいなと。とはいえ、私自身、この仕事にやりがいを感じながらやっているので、お任せする際には、あくまで本人のやりたい意思を優先してもらいたいと思っています。
それと同時に、この研修内容の見直しも考えています。新入社員や既存社員向けには1日限定で行っているので、内容を詰め込みすぎているところがあります。参加者のレベルによっては2日間に分けたりと、バリエーションを増やしていくことも検討中です。それでも「楽しんで学べること」はベースとして押さえた上で、当社でしかできない研修プログラムにはこだわっていきます。そうすることで、今後も未経験の方がより楽しみながら、安心して学んでいける環境が整えられると思います。
*フィールドサポート:お客さま先でご契約いただいているIT機器のサービスに問題が発生した時に対応するスペシャリスト