2024年01月30日
150年後を語ろう。境野氏がドイツで学んだ合意形成のあり方

150年後を語ろう。境野氏がドイツで学んだ合意形成のあり方

2023年10月に開催されたE-wastream Japan 2023。オンラインイベントでは、NTTコミュニケーションズ株式会社より境野哲氏をお迎えし、『循環型社会”見える化”の現在地』について、欧州のデータ連携基盤を活用する事例を中心にお話を伺いました。配信では時間の都合でお話しいただけなかったことについて、イベント終了後に深掘りし、その内容をアフタートークとしてまとめました。

未来をつくる主権者として”当事者意識”を持つ

ゲットイット(以下、G)オンラインイベントの中で、環境配慮製品は価格が高いことが多く、環境意識の高まりにより社会が貧困層と富裕層に二極化してしまうのではないか、という質問がありました。それに対して境野さんが、貧困の解決は貧困対策の政策として、環境対策とは別の政策でカバーするべきことと説明されていましたね。どういう国を目指したいのか、という哲学の話に繋がるというお話が印象的でした。

 

境野氏:例えば、2100年にこの日本列島をどうしたいですか?という問いに対して、私はこう思うと明快に自分のビジョンを答えられる人が、政治家を含めてどれだけいるでしょうか。欧州やドイツの経営者たちの話を聞く中で驚いたことがあります。7年前、車や機械などの安全規格に関わるドイツ系認証機関の設立150周年記念イベントに参加したときのことです。会場の大きなスクリーンに、たくさんの馬車が道を走っている150年前の写真と、その十数年後に馬車がいなくなって自動車が道路を走っている写真を映し出して、さぁ150年後にどうなるかを考えましょうと、そういう話を経営者の方がするのです。日本ではこういう中長期ビジョンの話をほとんど聞いたことがありません。

そうした発想の違いが生まれる背景には学校教育の問題もあると思います。例えば、日本の中学校や高校では、自分が住んでいる町や国の100年後を想像して、どう変えていきたいか?と先生から聞かれたりみんなで議論したりする機会はあまりないでしょう。教科書に載っていることを覚えてペーパーテストで決まった正解を回答するのは得意かもしれませんが、君はどう思うか、どう社会を変えたいかと問われ自分で実現方法を考える経験が少ないように思います。

そのせいで日本では、自分が何も考えず何もしなくても、いつか誰かが社会の問題を何とか解決してくれるだろうという他力本願の文化ができてしまった気がします。資源循環や脱炭素の問題も、そのうち誰かが何とかしてくれるだろうとみんな思っている。資源循環や脱炭素に向けてあなたは何をしているか問われても、「まだ別に何もしていません、いつか何かをやらなきゃいけないとは思ってるんだけど…」という具合です。このままいくとこの国は、国際社会の変化に追随できなくなって、悲劇的な結末を迎えてしまうのではないかと思います。社会の仕組みを変える方法としては、そういう荒療治もあります。幕末や終戦時と同様に、国の形や制度を壊して政権や企業を解体した後、もう一度作りなおすという方法です。そのようなシナリオも含めて、問題解決に向けた様々なオプションを並べて、どうすればよいか、どの選択肢を選ぶべきかを、私たち自身がみんなで考えて決める必要があります。

150年後を語ろう。境野氏がドイツで学んだ合意形成のあり方

議論の土壌を耕すには

G:違う考えや利害を持った人たちが話し合い何かを決めることは、すごく時間がかかると思います。諦めないで話し合いを続けるのは、相当な胆力が求められますよね。

 

境野氏:問題を解決するにあたって、何年スパンで考えるかによって意思決定の方法が変わると思います。1週間先のことであれば、国民全員で話し合いをするよりも、誰かがこれにしようと決めるのが楽だし現実的です。でも、資源循環や脱炭素のように50年とか100年というスパンで解決策を考えるべき問題について、十分な議論をせずに一部の人の都合で今その方針を勝手に決めて対応を進めてしまったら、いずれやり直しや失敗が起きて、かえって面倒ですよね。だから今もうちょっと時間をかけて未来のことを熟慮すべきなんじゃないか、みんなの意見を聞こうよ、という発想をしていく必要があるのだと思います。

またドイツの例になりますが、ドイツ政府はGaia-X(※1)の構想を2019年に打ち出した後、フラッグシップにするパイロットプロジェクトを複数選びました。そういう優先順位の高いプロジェクトの中の1つにCatena-X(※2)がありました。自動車産業が最初の対象に選ばれた理由は、おそらくドイツの産業において自動車産業の占める割合が非常に大きいこと、そして電気自動車が普及してきたことでゲームチェンジが起き、イノベーションが必要な状況になったことだと推測します。そのプロジェクトに公的資金を100億円も投じることを決めた決断力もすごいと思います。もし日本で同じようなことをやろうとしても、「メーカーの経営者が反対するから無理だ」とか「サプライヤー企業がついていけないのではないか」とか「中小企業が置いていかれるのでやめよう」などというネガティブな話や出来ない理由を並べる人が出てきて、社会全体での合意形成や意思決定ができないのではないでしょうか。他方で欧州では、さまざまな利害関係者が時間をかけて話し合い、業界リーダーや為政者が必要性を訴え続けて新しいルールを提案し、それを法制化して実現しようとしており、合意形成の能力がすごいと思います。途中で政権が変わっても一貫して2010年代からずっと継続的・戦略的・計画的にやっているのです。

そうしたドイツ社会の強さや賢さの背景には、さまざまな分野の博士号を持つ多数の学者による博士コミュニティがあると聞いたことがあります。それを支える高等教育は19世紀のビスマルクの時代から整備されたそうです。大学教育を充実させて学者をどんどん輩出し、その人たちが政・財・官をわたり歩いて社会をダイナミックに動かしていく。博士号を持つ人が、あるときは政府に入り、あるときは財界に移り、またあるときは大学の先生になるというように、博士コミュニティから優秀な人材を供給できる仕組みがあります。そのような層の厚い頭脳集団を持っていることが、短期的な利害関係を越えて科学的に問題解決の方法を話し合い、互いに協力し合える理由の1つなのではないかと思います。

 

G:なるほど。確かにアカデミックな世界には、営利とは別に、真理の探求のような共通の目的があるように感じます。また、業界や部門を越えて人の流動性が高いというのもポイントですね。多様な考え方に触れ、自分の考え方が相対化されるきっかけになったりするように思います。そういう意味では、今日境野さんとお話したことで新しい視点をたくさん得ることができ、世界が広がりました。

 

境野氏:私は普段ITシステム関係の方とお話をすることが多いので、コネクターの技術とか、システムやデータをどうやってつなぐのかといったテクニカルな質問を受けることが多く、国際社会での総合政策的な考えや国家戦略・企業戦略みたいなことを面と向かって質問をしてくる人はあまりいません。今日はそういうお話ができてとても楽しく有意義でした。どうもありがとうございました。

 

G:お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございました。

150年後を語ろう。境野氏がドイツで学んだ合意形成のあり方

2023年に開催されたオンラインイベント『循環型社会“見える化”の最前線「エバンジェリストと考える、データと人のつながりかた」』を、現在アーカイブ配信中です。まだご覧になられていない方は、ぜひ以下よりご視聴ください!

※1 Gaia-X:産業や地域を超えてデータを交換・共有する基盤を公共社会インフラの1つとして整備するための計画。2019年、ドイツとフランスの両政府が構想を発表し、現在では欧州を中心とした300以上の企業、世界25か国が参加して、市民や企業・団体が安心安全にデータを管理し交換できるルールや標準を定め、それを実現する仕組みをオープンイノベーションの手法で開発している。

※2 Catena-X:Gaia-Xの思想・ルール・標準にもとづいて開発された産業別データ交換ネットワーク開発プロジェクトの1つ。自動車産業のサプライチェーン・バリューチェーン全体でデータを共有するための連携基盤が開発され、2023年10月からサービス提供が開始された。
グリーンIT編集部
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