SAP ECC 6.0の標準サポートが終了する「2027年問題」。多くの企業がS/4HANAへの移行か、現行システムの延命かの決断を迫られています。しかし、コスト高騰や人材不足、複雑なアドオン整理などのハードルから、すぐに刷新へ踏み切れないのが実情です。
本記事では、2027年問題の影響を整理したうえで、特に「第三者保守」を活用して検討時間を確保する選択肢に焦点を当てます。「ソフトウェアの延命」を選択した場合に直面する「ハードウェア保守切れ」の問題まで含めた、「システム全体を止めない延命設計」と、将来的な移行につなげる準備ステップを解説します。
1. SAP2027年問題とは?終了期限とサポート範囲を整理
まずは「何が、いつまでサポートされるのか」を明確にし、サポート終了が実務にどのような影響を与えるのかを整理します。
1-1. SAP ECC 6.0の標準サポートはいつまで?2027年末と延長保守(2030年末)
SAPの「2027年問題」とは、SAP ECC 6.0を含む主力製品の「メインストリーム保守」が2027年末で終了し、企業が対応方針を迫られる経営課題です。2030年末までの「延長保守」も用意されていますが、利用には以下の点に注意が必要です。
- コスト増:通常の保守料に対し、2%ポイントの追加料金が発生します。
- 適用条件:バージョンやEhP(エンハンスメントパッケージ)の適用状況によっては、延長保守を受けられない場合があります。
そのため、まずは自社の契約と環境を正確に把握し、どの選択肢が採用可能かを確認することが、対策のスタートラインとなります。
(出典:SAPサポートポータル)
1-2. SAP標準サポート終了で何が起きる?企業実務への影響
保守終了は単なる窓口変更ではなく、運用・統制の前提が変わることを意味します。そのため「誰が何を担うか」という責任分界点の再設計が必要です。具体的には、主に以下3つの領域で影響が生じます。
影響①:セキュリティ対応(脆弱性・パッチ・監査)
脆弱性情報の収集やパッチ適用判断、監査説明などをメーカー任せにできなくなり、企業側が負うべき判断・責任の範囲が拡大します。
影響②:法制度・業務要件への追随(税制改正など)
税制改正などの外部変化を、メーカーパッチで吸収できなくなります。標準外の個別対応(アドオンや運用回避)が積み重なると、結果として将来の移行難易度を押し上げる要因となります。
影響③:障害対応・運用体制(切り分け〜復旧の再設計)
障害時の切り分けや復旧フローなど、運用の要となる部分の見直しが必要です。「現状維持」を選ぶ場合でも、従来と同じ運用は通用しないため、リスク管理を含めた新たな設計が不可欠となります。
2. なぜSAP S/4HANA移行は進まないのか

SAPの2027年問題は、単に「期限」の話だけでなく、「期限までに間に合わない」という現実的な課題でもあります。多くの企業でプロジェクトが難航・凍結してしまう要因は、主に次の2点です。
2-1. 人材・コスト・停止リスクの「三重苦」
S/4HANAへの移行は、要件定義から切替まで数年を要する大規模プロジェクトです。しかし、市場全体のSAP人材不足によるコスト高騰に加え、切替時の不具合や連携不整合による事業停止リスクが、経営判断を慎重にさせます。
特にアドオンが肥大化している場合、影響調査とテストに膨大な工数がかかります。その結果、予算化や体制確保の目処が立たず、着手自体が後ろ倒しになるケースが後を絶ちません。
2-2. 現行システムが安定稼働しているジレンマ
現行ECCが安定している企業ほど、「なぜ今、巨額投資をして変える必要があるのか」というROIの説明が難しくなります。しかし、「現状維持にもコストはかかる」という事実は見落とされがちです。サポート期限はアプリだけでなく、サーバー・OS・DB等のインフラ層にも存在します。
たとえ「塩漬け(延命)」を選んでも、ハードウェア更改やOS対応には、検証や手順更新などの工数が発生します。つまり「移行しない」判断であっても、安全な維持には相応の設計と追加コストが不可欠なのです。
3. SAP2027年問題の対応策一覧:移行か延命か
ここからは、対応策を「移行(刷新)」と「延命(継続利用)」の2軸で整理します。特に「延命」については、手段によってコストやリスクが大きく異なるため、選択肢を明確に分けて検討する必要があります。
3-1. 選択肢1:SAP S/4HANAへ移行(刷新)
現行ECCからS/4HANAへ移行し、問題を根治する正攻法です。将来的な拡張性やDX基盤としての再設計が可能になる反面、移行方式の選定、アドオン整理、周辺連携の改修など、実行には相応のコストと工数、そして数年単位の期間を要します。
3-2. 選択肢2:SAP公式延長保守(延命)
すぐにS/4HANAへ移行できない場合の選択肢として、まずはメーカー公式の延長サポートが挙げられます。コストは増加(保守料+2%)しますが、2030年末まで引き続きメーカーからのパッチ提供やサポートを受けられるため、「安心感」を重視する場合の選択肢となります。
3-3. 選択肢3:ソフトウェアの第三者保守(延命)
メーカー保守を終了し、Rimini Streetなどの専門ベンダーへ切り替える手法です。最大のメリットは劇的な「コスト削減」です。メーカーからの修正パッチは提供されませんが、独自のセキュリティ対応などで現在のシステムを維持します。
浮いた保守費を次期システムへの投資原資に回せるため、戦略的な延命手段として近年注目されています。ただし、この選択肢をとる場合は 「何年延命させるのか、その後どのようにするのかの計画」や「システムを稼働させているハードウェアの維持」もセットで考える必要があります。
3-4. 選択肢4:他ERPへ切替(参考)
他社ERPへの乗換も選択肢の一つです。業務と機能が合致する場合(Fit to Standard)は有効ですが、要件再定義や業務標準化など現場負荷が大きくなりがちです。そのため本記事では、参考程度に留めます。
4. 移行(S/4HANA)と延命(第三者保守)の要点比較

移行は問題を根治する「根本解決」、延命は戦略的に「時間を買う」打ち手です。重要なのは、自社のリソースに合わせて最適な組み合わせと順序を設計することです。以下に要点をまとめました。
4-1. SAP S/4HANA移行のメリットと乗り越えるべき「壁」
S/4HANA移行はDX基盤への刷新という大きなメリットがありますが、難易度は「やることの多さ」にあります。移行方式(ブラウンフィールド/グリーンフィールド等)の選択に加え、以下の5点がプロジェクトの壁となりやすいため、事前の棚卸し(アセスメント)が不可欠です。
- アドオン整理:個別開発の棚卸しと取捨選択
- データ移行 :対象範囲・品質・方式(マスタ/トランザクション)の設計
- 周辺連携 :インターフェースの改修、ジョブ運用、帳票・EAIの見直し
- 教育・定着 :画面・権限変更を踏まえた手順再設計
- 切替リスク :停止時間の確保、リハーサル、切り戻し手順の準備
移行プロジェクトは、「着手してから考える」では手遅れになりがちです。事前の棚卸しと方針決定(アセスメント)を徹底することが、成功の鍵を握ります。
4-2. SAP延命の選択肢:「SAP延長保守」と「第三者保守」
移行の長期化を踏まえ「延命」を選択する場合、その目的(コスト重視か、安心重視か)によって具体的な手段が分かれます。
SAP延長保守(安心重視):
追加料金(保守料+2%)を支払い、メーカー公式サポートを継続します。コストは増えますが、法改正対応などの公式パッチを受け取り続けたい場合の選択肢です。
ソフトウェア第三者保守(コスト重視):
専門ベンダーを活用し、既存のSAPアプリケーションを使い続ける手法です。保守費を大幅に削減できる点がメリットですが、「既存システムを使い続ける」ということは、それを動かしているサーバーなどの「ハードウェア」も古くなるという点に注意が必要です。ソフトウェアの保守だけでなく、後述するインフラ側の維持対策がセットで必要になります。
5. ハードウェアEOSLとSAP保守の関係

SAP延命を成功させるには、アプリケーションだけでなく、それを支える稼働基盤(サーバー・ネットワーク機器)の寿命(EOSL)まで含めた「システム全体を止めない設計」が不可欠です。
5-1. SAPアプリの延命だけでは不十分な理由
特に「ソフトウェアの第三者保守」を選択した場合、必然的に現在のハードウェア基盤を使い続けることになります。しかし、SAPアプリが延命できても、足元のハードウェアがEOSL(メーカー保守終了)を迎えれば、故障時の復旧ができず、システム全体が停止します。かといって、延命期間中にハードウェア更改を行えば、OS/DB整合性確認や検証に膨大な工数がかかります。つまり、「ソフトウェアの第三者保守」を選ぶならば、対となる「ハードウェアの第三者保守」もセットで検討しなければ、リスク管理として成立しないのです。また、ハードウェア更新問題はクラウドにリフトアップする方法もありますが、リフトアップする場合の検証テストやシステム改修が必要になり、その費用や期間が少なくない場合も考慮されます。
5-2. 第三者保守は「3つのレイヤ」に切り分けて考える
「第三者保守」と一口に言っても、対象範囲は広範です。意思決定の際は、以下の3層に切り分けて整理することで、責任の所在(責任分界点)を明確にできます。
- アプリ層(SAP):制度対応や問い合わせ窓口をどう確保するか。
- OS/DB層 :サポート期限切れ後のパッチ適用責任や、セキュリティリスクをどう許容するか。
- インフラ層(ハード):物理的な故障時に、確実に部材とエンジニアを確保できるか。
レイヤ別に整理することで、「OSのパッチが出ないなら運用でどうカバーするか」「物理故障時のオンサイト体制はあるか」といった、延命を成立させるための現実的な条件を漏れなく洗い出せます。
5-3. インフラ第三者保守(TPM)が作る「延命の整合性」
システム全体の延命を成立させる最後のピースが、インフラ層の第三者保守(TPM)です。メーカー保守終了後の機器に対し、故障時の駆付けや部品交換を提供し、稼働を維持します。その位置づけは以下の式の通りです。
【SAPソフトの延命】×【インフラ第三者保守】= 止めずに延命する現実解
インフラの第三者保守は単なるコスト削減策ではなく、「システムを止めない前提で、移行準備の時間を稼ぐ」ための安全装置です。検討にあたっては、SLA(サービスレベル)や対応拠点の確認はもちろん、現物ベースの構成確認(台帳との差分、型番、I/O構成のチェック)まで踏み込み、実際の障害対応フローに落とし込めるレベルで設計することが重要です。
6. 推奨アクション:着手すべき準備と進め方

ここまで、「移行」と「延命」の全体像、そして延命を成立させるにはEOSLを含む全レイヤ(アプリ・基盤)をセットで設計する必要があることを解説しました。最後に、検討を具体的に前に進めるためのアクションと心構えをまとめます。
6-1. まずは「棚卸し」で前提条件を見える化する
移行・延命、どちらの道を選ぶにせよ、現状把握(アセスメント)がすべての出発点です。以下の要素を棚卸しし、前提条件をクリアにすることで、必要な体制・期間・リスクを現実的に見積もることが可能になります。
- SAP側の現状 :ECCのバージョン/EhP、アドオンの量と質、I/F(インターフェース)、運用体制、現在の契約内容。
- 基盤側の現状 :サーバー/OS/DBのEOSL時期、延長保守やTPM(第三者保守)の利用可否、パッチ運用の責任分界点。
- 業務・制約条件:許容できる停止時間(ダウンタイム)、監査・セキュリティ要件、稟議承認に必要なリードタイム。
6-2. 期限から逆算し、「移行」と「延命」の“二本立て”で進める
2027年末という期限は、技術的なサポート終了日であると同時に、企業にとっては「プロジェクト完了のデッドライン」です。移行プロジェクトには、要件定義、改修、総合テスト、パートナー確保などに年単位の時間が必要です。そのため、最初から一つに絞るのではなく、「移行トラック」と「延命トラック」を並行して検討する(二本立てで進める)アプローチが有効です。
- 移行トラック:アセスメント → 構想策定 → パートナー選定 → 実装
- 延命トラック:契約確認 → インフラEOSL対策(TPM検討) → 運用・セキュリティ再設計
6-3. 延命は「ゴール」ではなく「準備期間」と心得る
最後に重要な視点をお伝えします。第三者保守などを活用した「延命」は、あくまで暫定対応であり、ゴールではありません。延命によって得られた数年の猶予期間(モラトリアム)は、単に先送りするための時間ではなく、「次期システム更改(S/4HANA移行など)に向けた準備を、焦らず確実に進めるための時間」です。
コストを抑えてシステムを維持している間に、十分なアセスメントと構想策定を行い、万全の状態で次期システムへのバトンを繋ぐことこそが、2027年問題を乗り越える本質的な成功と言えます。
7. まとめ
SAPの「2027年問題」は、ECCの標準サポート終了を契機に、企業が基幹システムのあり方(刷新か、延命か)を再定義する重要な転換点です。対応策は大きく「移行」と「延命」に大別されますが、特にコストメリットのある「ソフトウェア第三者保守」による延命を選択する場合、その土台となるサーバー・OS・DB(インフラ層)のEOSLまで含めた「全レイヤで止めない設計」が不可欠となります。
ゲットイットでは、この延命戦略の鍵となる「インフラ第三者保守(TPM)」を中心に、EOSL対策から運用設計までをトータルで支援しています。「移行までの時間を稼ぎたい」「コストを抑えて安全に延命したい」とお考えの際は、ぜひ一度ご相談ください。