CSRDとは
CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)は、2023年に欧州委員会が発表したサステナビリティ関連の非財務情報開示の指令です。現行の非財務情報開示指令(Non-Financial Reporting Directive:NFRD)をベースにしていますが、以下のような変更点もあります(*1)。
①NFRDと比べ対象企業が4倍に増え、サステナビリティに関する報告が義務付けられる企業数は欧州内外で計約5万社になる
②「サーキュラーエコノミー」が初めて報告カテゴリーに含まれる
対象企業は、環境に与える影響やリスクについてより詳しい報告を求められるようになります。また、CSRDは加盟国において国内法制化され、準拠しない場合はそれぞれの国・地域で制裁が実施されます。その結果として、気候変動対策やサーキュラーエコノミ―の取り組みがこれまで以上に推進されると期待されています。
欧州の企業の反応・変化は?
欧州の企業にとって、CSRDへの準拠は大問題です。というのも、欧州経済領域(European Economic Area:EEA)においてCSRDに対応しなければならない企業の割合は約75%にのぼるからです(*2)。
しかし、CSRDの準拠は一朝一夕では実現できません。環境に与える影響やリスクについてより詳細な報告や踏み込んだ施策の実施が必要となるので、企業側から「大変だ」という声も出ています。ある調査では、調査回答者500人以上の中でサステナビリティと財務の連携の改善に取り組んでいると回答した割合は10%にとどまり、財務報告プロセスにサステナビリティ指標を追加する際の主な懸念事項として「データの信頼性」(36%)、「スケジュール」(35%)が上位を占めています(*3)。実際、ドイツを本拠地とするスポーツメーカーPUMA SEのサステナビリティ部門の責任者ステファン・ザイデル氏は、2023年9月にロンドンで開催されたロイター・インパクト会議のパネルディスカッションで自社のCSRDについて「要件を満たす段階には程遠い」と述べています(*4)。
欧州以外の国々にも、大きな影響が
CSRDは欧州に限った話ではありません。欧州にある支社の規模や売上の条件を満たす場合、EU域外の国に本社を置く企業もCSRDに準拠しなければなりません。その数は計1万社以上に上ります。最も多いのは31%を占める米国の企業で、カナダの企業13%、英国の企業11%、日本の企業8%が続きます(*5)。EU域外の国の企業は、自国の基準に加えてCSRDにも対処していかなければならないので、より多くの労力と時間が必要になるでしょう。例えば米国の企業は、米国証券取引委員会が設けた基準に加えてCSRDに準拠した報告をしなければなりません(*6)。
また、CSRD対象企業のサプライチェーンに属する企業は、CO2排出量や環境負荷低減の取り組み内容などの情報を求められる可能性があります。そのため、欧州の企業と取引がある企業は自社のデータの管理やサステナビリティ施策をこれまで以上にしっかり行う必要性が出てきそうです。
リサイクル・リユース業界への影響
CSRDは、サーキュラーエコノミー実現のために必須の存在であるリサイクル・リユース業界にも影響を及ぼしています。当社が2023年6月にドイツで開催された展示会「E-waste expo 2023」に出展した際も、欧州に拠点を置く同業他社の方から「CSRDの影響で引き合いが増えている」という声を聞きました。主な理由としては、以下が考えられます。
①CSRDで開示すべき項目の1つに「資源利用と循環」があり、これにITAD(IT資産の適正処分)に関するデータの提出が該当しているため
②CSRDではいわゆる「ダブルマテリアリティの原則」が明確化された。これにより、事業が業績の推移や状況に与える影響のみでなく、企業が環境と社会に与える影響も報告しなければならなくなった。その結果、事業活動による環境負荷の低減に取り組む企業が増えているため(*7)。
CSRDに今後も注目を
CSRDは、欧州はもちろん欧州に支社がある多国籍企業、欧州の企業と取引があるEU域外の企業にも影響を与えます。また、世界的にサーキュラーエコノミーが重視されているため、CSRDに倣った情報開示指令が日本を含む世界各国に広まる可能性は高いです。IT機器の適切な処分も、これまで以上に重要視されていくでしょう。IT機器のサーキュリティに関する課題解決は、ぜひゲットイットにご相談ください。