2020年10月、日本政府は2050年までのカーボンニュートラルを宣言しました。SDGsやサステナビリティといった言葉を耳にすることは多くなりましたが、脱炭素が企業活動にどのような影響を与えるのか、具体的にイメージできないという人もいるかもしれません。
日本政府の環境政策、あくまで自主性を促す
これまでのところ政府は、企業に対してあくまで自主的な環境対策を促すというスタンスをとっています。環境省は、省エネ機器の導入や環境経営の指針に取り組んだ企業を補助金の採択で優遇する方針を示しています*。経産省は、環境対策に積極的な企業を対象に、温暖化ガスの排出削減量を取引する新しい市場を2023年度からスタートさせることを発表しました*。CO2の排出量に応じて課税をする炭素税のような強制的な仕組みは、日本ではようやく検討が始まった段階で、実装にはまだ時間がかかることが予想されます。一方、先行する民間企業ではCO2排出量に対して独自に価格をつけ投資判断に役立てる、インターナル・カーボンプライシングの採用が徐々に増えています*。CO2の排出量もあらかじめ考慮すべきコストと捉え、設備投資が適切かどうかの判断基準の1つとして用いているのです。これらの企業は、脱炭素に積極的に取り組まなければ不利になる社会が確実にやってくることを見据え、今から対応を始めています。
海外の事例から見る、”不都合”な未来
では、脱炭素に積極的に取り組まないと不利になる社会とはどのような社会なのか、海外の事例を見てみましょう。海外では、原材料の調達から製造、廃棄までに排出したCO2の総量を可視化する、カーボンフットプリントの取り組みが進んでいます。EUでは、2024年からカーボンフットプリントの表示義務化が始まり、2026年からはEU域内の製品よりCO2排出量が高い製品を輸入する際に関税をかける、国境炭素税が導入されます*。
また、企業活動に対する環境NGOや市民団体の存在感も無視できません。オランダでは石油大手シェルの「不十分な環境対策」が訴訟問題に発展し、裁判所が企業側へCO2排出量削減を命じる異例の判決が出されました*。金融機関の投融資方針を環境の観点から評価する動きもあり*、環境対策を怠ることが、単に商品が選ばれないだけではなく、訴訟リスクや資金調達リスクに直結する社会へとシフトしていることがわかります。
IT業界の抱える環境課題
環境問題で注目されがちなのは石油関連業界ですが、IT業界もこのようなリスクと無縁ではありません。今や社会活動に欠かせないITインフラは今後も規模拡大が明らかな一方、大量の電力消費とE-waste(電子ごみ)の定期的な大量廃棄という課題を抱えています。人工知能やIoTの普及でデータ流通量は爆発的に増え続けており、現在のサーバーの性能を前提とした場合、2030年にはデータセンターの世界電力消費は現在の15倍になるとも試算されています*。鍵となるCPUの省エネ化も鈍化しており、省エネと並行して再生可能エネルギーへの転換が急ピッチで進められています。データセンター大手のマイクロソフトは、2025年までに自社で使用する電力を100%再生可能エネルギーに切り替えることを宣言しています*。また、新しいデータセンター設立時に「サーキュラーセンター」と呼ばれるIT資産のリユースやリサイクルを行う施設を併設し、サーバーのリユース率を2025年までに90%にする目標も掲げています。
マイクロソフトの例は、大企業だからできることと思われるかもしれません。しかし、企業規模を問わず私たちが自らの事業の環境負荷を省み、できることから行動を始めることが重要なのではないでしょうか。ゲットイットも、持続可能なIT運用を模索する多くの先進的な企業と、その志を共にしていると自負しています。サステナブルコンピューティングは、一社だけで実現できることではありません。すでに取り組みを始めている多くの取引先さまとともに、歩みを進めていきたいと考えています。
サステナブルコンピューティングについてはこちら。