レアアース(希土類)はレアメタル(希少金属)の中でもさらに希少性の高い重要鉱物で、電気自動車のモーターや半導体に欠かせない資源です。その供給の多くを中国に依存していることから、バイデン米国大統領は2022年2月、経済安全保障の観点から供給網を見直すよう求める大統領令に署名をしました*。200ページを超えるホワイトペーパーの中で特に興味深いのは、データセンターが新時代の鉱山として指名されていることです。米政府が管理する 4,000以上のデータセンターで使用されるHDDから、レアアースを取り出し再利用するプロジェクトへ出資することが示唆されています*。
多くの企業において、不要となったHDDは無条件に物理破壊(裁断)されています。裁断されたHDDはアルミニウムとしてリサイクルされることが一般的ですが、レアアースを含むその他の資源は回収の対象とされないことから、非常に非効率な再生方法であることが指摘されています*。IBMやDellなどの電子機器製品メーカーが加盟する非営利団体iNEMIは、HDDの効果的な再利用を促すプロジェクトを始動し、HDDの再利用がもたらす経済的価値、環境的価値を報告しました。
まず、いくつかの異なる手段を用いてHDDをリユース・リサイクルした場合、それぞれ再生後の価値がいくらになるかを算出しています(下記の表)。一番価値が高いまま再生できるのは社内でのリユース、一番価値が下がるのはアルミニウムリサイクルとなり、その差は最大で95倍となることがわかりました。
環境に与えるインパクトについては、①HDDがリユースされた場合、②HDDのVCMA(ヘッド駆動用のボイスコイルモーターを構成しているマグネットアッセンブリー)がリユースされた場合、③VCMAの中からレアアースであるネオジム磁石(NdFeB)を抽出しリサイクルした場合、④スクラップ(裁断された雑金属くず)から各種金属を抽出しリサイクルした場合の4つの処理を、アルミニウムのみをリサイクルした場合と比較してCO2の排出量を算出しています。結果として、予想通りとも言えますが、①リユース、②VCMAリユース、③マグネットリサイクル、④金属リサイクルの順に環境貢献度が高いことが明らかになりました。
一方で、いかに経済的・環境的価値があったとしても、情報漏洩のリスクがある以上は物理破壊を選択せざるを得ない、と考える企業も多いことでしょう。国際的なデータ消去の規格であるNIST SP800-88 Rev.1によれば、重要なのは扱うデータの特性に合わせたリスクアセスメントと消去方法の選定です*。下記の図が示すように、セキュリティレベルが高いものと中〜低レベルのものの処理フローを分けることで、リスクと価値再生の最適なバランスを選択することが可能です。総務省も、2019年12月の神奈川県庁のHDD流出事故を発端に「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を改訂し、不要になったHDDに記録されている情報の機密度を基準とした消去方法の選択を推奨しています*。
NIST SP800-88 Rev.1が定義するデータ消去手法選定フロー図
引用:NIST(米国国立標準技術研究所)「SP800-88 Rev.1 Guidelines for Media Sanitization(媒体のサニタイズに関するガイドライン)」、「Sanitization and Disposition Decision Flow(サニタイズと処分に関する意思決定の流れ)」 https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/SpecialPublications/NIST.SP.800-88r1.pdf
加えて、前述のような社会背景を受けて、本来必要のない物理破壊を行うことによる経済的・環境的損失は、今後ますます注目されるようになることを考慮する必要があります。天然資源の多くを輸入に依存している我が国においてはなおのこと、経済安全保障の観点からHDDのリユースを議論する必要がでてくるでしょう。
セキュリティポリシーと環境貢献の両立でお悩みの際には、ITADの専門家であるゲットイットにぜひご相談ください。
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