2025年10月16日に開催したオンラインイベント、「E-wastream Japan 2025―捨てる社会からつなぐ社会へ」のレポートを公開いたします。環境問題を専門とするエコライター、曽我美穂さんに執筆いただきました。
本イベントでは、経済産業省の三牧純一郎氏が「経済政策としてのサーキュラーエコノミー」と題して、日立製作所の藤元貴志氏が「リペア社会をデザインする」というテーマで基調講演を行いました。
その後、株式会社ゲットイット代表取締役社長の廣田優輝氏が加わり、サーキュラーエコノミーと経済活動のバランス、そして効果的な施策について、三者で活発な意見交換が展開されました。官と民、それぞれの視点から語られた現状報告と議論は、日本のサーキュラーエコノミーをさらに前進させるための重要な示唆に富んだ時間となりました。
経済産業省が考える、経済政策としてのサーキュラーエコノミーとは
三牧氏からは、経済産業省におけるサーキュラーエコノミー政策の変遷が丁寧に紐解かれました。30年以上にわたり、世の中の動きに寄り添いながら法律や政策が整えられてきた道のりを改めて確認する機会となりました。政策の出発点は、大量廃棄の深刻化を受け、1991年に制定された「再生資源の利用の促進に関する法律(リサイクル法)」にあります。その後、2001年にはリデュース、リユースの概念を加え、「資源の有効な利用の促進に関する法律(3R法)」として発展。そして2020年ごろからサーキュラーエコノミーの研究が活発化し、2023年には経済成長の機会につなげることを志向する「成長志向型の資源自律経済戦略」が策定されました。この背景には、国際的な資源や環境の制約が深刻化する中で、ビジネスの力で課題に対応し、企業の成長にも結びつけたいという強い意志があります。
続いて三牧氏が紹介したのは、経済産業省が推進する民間企業への支援策です。具体的には、再生材の利用促進、環境配慮設計の推進、再資源化の促進、そしてシェアリングサービスに代表される「サーキュラーエコノミー・コマース」の促進などが挙げられました。これらを推し進めるための具体的な取り組みとして、産官学連携のコミュニティ「サーキュラーパートナーズ」の立ち上げ、GX予算を活用した投資支援、そして改正資源法の策定を通じたルール整備について言及されました。最後に、消費者理解の促進をはじめとする今後の課題に触れながら、「多くの企業が高い関心を寄せており、協業による発展も期待できる分野。これからも積極的な取り組みを進めていただきたい」とのメッセージで講演を締めくくられました。幅広い施策が存在するからこそ、民間企業といかに情報を共有し、活用を促していくかが鍵になると感じました。
日立製作所が進める、リペア社会実現に向けた提言と実現に向けた小さな挑戦
日立製作所の藤元氏は、リペア社会実現に向けた自社の小さな一歩が、やがて波紋のように社会へ広がっていく過程を、イラスト入りのスライドで紹介しました。藤元氏の考えは、大量生産・大量消費の社会と循環型社会は対立軸ではなく、「どちらも選択できる、その間くらいを狙った世の中が理想」という点にあります。所属チームでは、この理想をメーカーとしてどう実現し得るかを検討。まず着手したのは、「リペア社会をデザインする」をテーマにした冊子作成です。2024年度に完成したこの提言書は、社会、製品、マインドセットという3つの価値観に基づき、修理が当たり前の世界を目指すための具体的な提言を含んでいます。

冊子『リペア社会をデザインする』より
さらに藤元氏は、冊子に描かれた未来シナリオとしての修理の様子(上記)のイラストが、社内外で大きな共感を呼び、実現に向けた議論を活発化させたエピソードを共有しました。この議論をきっかけに、社内チャレンジ活動に応募して始まったのが「なおスト」プロジェクトです。このプロジェクトでは、ストリーミング配信の「なおスト」を通して、プロが修理する様子をライブで届け、一般の人々に修理の価値と技術を伝えています。実証実験では、カフェなどの公共スペースで配信を行ったところ、当初の予想を上回る大きな反響があり、現在、事業化への準備が進められています。プロジェクトで大切にされているのは「小さな実践から社会実装を目指す」という考え方です。提言書作成も「なおスト」配信も、「まずはやってみよう」という前向きな姿勢とワクワク感をベースにした「小さな実践」からスタートしています。この小さな実践の積み重ねが、今後どのように展開していくのか、とても楽しみです。
サーキュラーエコノミーと経済活動のバランスは?今後に向けた効果的な施策とは
最後の三者鼎談では、以下の2つのテーマで議論が繰り広げられました。
1. 資源循環と経済活動のバランス
三牧氏は、環境問題への取り組みがビジネスと必ずしも対立するものではなく、むしろ新たなビジネスチャンスになり得ると強調しました。藤元氏は、修理しやすい製品設計や修理の価値を伝えることが、ブランド価値の向上にもつながるとコメント。2001年の設立以来、一貫して電子廃棄物の問題に取り組んできた株式会社ゲットイットの廣田氏は、「IT機器のリユースが、企業のコスト削減と環境負荷低減という二つの側面で貢献している」と具体的な事例を示しました。3名全員が、「資源循環の取り組みは、経済活動の妨げにはならない」という共通認識を示したことは、非常に重要なポイントと言えるでしょう。
2. 捨てない社会、つながる社会への具体的な施策
三牧氏は、他社の取り組みを知り、意見交換を通じてビジネスチャンスを発見するために、「サーキュラーパートナーズ」への参加を提案しました。藤元氏は、製品の寿命設計を再考する時代が訪れているとし、長期使用を前提とした設計を家電製品にも応用する可能性について展望を語りました。廣田氏からは、IT機器のリユース事例が複数紹介され、大手企業を中心にサーキュラーエコノミーへの関心が高まっている現状が報告されました。各企業がこの取り組みを積極的に推進しているのは明白です。今後は、その動きを加速させるため、互いの取り組みから学び合う機会が一層求められるとの印象で議論は締めくくられました。

サーキュラーエコノミー加速に必要なことは、それぞれの場での着実な実践
三者鼎談の最後に、三牧氏が「今後は企業だけでなく消費者も巻き込んだコミュニティ作りをしたい」と未来への展望を語り、藤元氏は「日本独自のサーキュラーエコノミーを世界に発信していきたい」と意欲を述べました。廣田氏は、二人の話から大きな刺激を受けたことを伝え、今後もサーキュラーエコノミーに積極的に取り組む決意を表明しました。
サーキュラーエコノミーのさらなる発展は、登壇者の方々をはじめ、関わるすべての人々が、それぞれの立場でこの取り組みに真摯に向き合い、継続していくことにかかっていると言えるでしょう。
(文・曽我美穂)