2022年12月20日

【技術顧問の小話 #005】HDDの障害

【技術顧問の小話 #005】HDDの障害

 

 

HDDは、パソコンの中で最も障害が多く発生する部品です。アメリカのデータ復旧会社の調査結果によれば、パソコンでのデータ消失のうち95%はHDDが原因であり、絶対的な割合を占めています。そして、そのうちの約40%が内部の機構部品の故障です。

データ復旧会社に持ち込まれるHDDの障害の原因の中で一番多いのがリードエラーで、約半数を占めます。二番目と三番目がヘッド故障とファームウェアやシステムエリアに書かれている情報に関わる障害で、それぞれ約15%~20%程度。この3種類の障害の合計が全体の8割を超える状態となっています。

今日は、よくあるHDDの障害(HDDのリードエラー、ヘッド故障、ファームウェア障害、ヘッドクラッシュ)についてそれぞれ解説していきます。

 

 

1.リードエラー

リードエラーとは、文字通りHDDがデータを読み出そうとした時に正しく読み出せない症状のことです。また、CRCエラーもリードエラーの中に含まれます。データ復旧業者がリードエラーと呼ぶのは、部品交換などの物理的な手段を用いることなく、専用の設備や装置を使用することでデータの読み出しが可能であった結果でも有るのです。

HDDにリードエラーは付き物であって、実際には何時起こっても不思議ありません。それがユーザに認識されないのは、HDDの機能として自動的に働くリードリトライ機能によって顕在化が予防されているためです。また、HDDにおけるCRCエラーは、セクタ内の「Sync領域」に書かれている「CRCデータ」が正しく読み出せないことを表すエラーなので、広義ではリードエラーの範疇となります。

これらリードエラーの主な原因は、①HDDの設置されている姿勢、温度、振動、衝撃などの使用環境の影響、②HDDに使用されている部品の経時変化、の二通りです。よって、読み出したデータの論理的な損傷に起因して発生する「論理障害」ではなく、データを読み出す動作の物理的な問題によって発生する「物理障害」に分類することが正しい判断となるのです。

 

 

2.ヘッド故障

ヘッドの故障によるHDDの症状の代表的なものは、電源ON直後の起動時の“カコン、カコン”という異音の発生です。これは、HDDの電源ONによって開始される起動シーケンスの中で、HDDのシステムエリア(SA:サービスエリアとも呼ぶ)上のデータを読みに行った際に、プラッタ上のトラック位置を示すサーボデータを読み出すことができず、ヘッドの位置を制御できずに暴走し、ヘッドの破損防止のために用意されているストッパにヘッドが衝突している音です。

ヘッドの故障原因として一番多いのは、プラッタ(円盤)との接触によるヘッドクラッシュが挙げられます。ヘッドクラッシュというと、プラッタの傷を思い浮かべると思いますが、実はヘッドの方がダメージを受けやすいことは、あまり知られていないようです。簡単に説明すると、昔のレコードとレコード針の関係で、ダイヤモンドで作られている硬いレコード針が、塩化ビニール製の柔らかいレコード盤と接触して振動を拾います。この時にレコード盤ではなくレコード針が摩耗するのは、ダイヤモンドを構成している炭素(結晶)が、レコード盤との摩擦熱で酸素と結合(高温による酸化)して二酸化炭素(炭酸ガス)となる、昇華現象のためです。このように、回転している円盤と接触して損傷を受け易いのは、レコード盤やプラッタではなく、相対的に熱容量の小さいレコード針やヘッドの方なのです。

 

 

3.ファームウェア障害

ファームウェア障害の原因はよく分からないことが多いのですが、症状としては、①ヘッド故障のようにヘッドがストッパに衝突して異音を発生する、②モータの回転音がしてヘッドは動くがBIOSで認識されない、③HDDが起動停止を繰り返す、などがあります。これらは、電源ONによる起動シーケンスの中で基板上のメモリからファームウェアを読み込み、プラッタのシステムエリアに書かれているデータ(ファームウェアの一部やファームウェアに必要とされるパラメータ)を読み込む際、そのデータと実際の状況の確認作業中に障害(不一致:エラー)の存在が検出されたことによるものです。

 

 

4.ヘッドクラッシュ(プラッタ表面損傷)

HDDの故障と言うと“クラッシュ”と言われるほど代表的な障害ですが、既に説明したように、実はヘッドの方が損傷を受け易く、プラッタは比較的損傷を受けにくいのです。
クラッシュの始まりは、とても目視で確認できるような物ではありません。現在のHDDのヘッドとプラッタの隙間(浮上量)は、約2ナノメートルで、1ミクロンの1/500しかありませんし、データの書き込まれているトラック幅は約50ナノメートルで、1ミクロンの1/20しかありません。ですから、目で見えるような傷は、既に複数のトラックに及ぶ大きな傷になってしまった後の姿なのです。

クラッシュによる障害は、ヘッド障害の発生率と比べてはるかに低いのです。この理由は、プラッタの回転によって起こされる気流によってヘッドが浮いていることにあります。プラッタとヘッドの間の気流がクッションの役目をするので、浮上量が微小であっても、運転中は簡単には衝突事故を起こしません。運悪く衝突事故を起こしても、傷つくのはヘッドの方であることが多く、プラッタに傷は付き難いのです。

実際のクラッシュは、始めの衝突で発生した破片などが運悪くヘッドのエッジ部分とプラッタの間に引っ掛かり、その鋭い角がプラッタを引っ掻くことで大きくなることが多いのが本当の姿です。このため、初期の状態であればヘッド(ヘッドアームアセンブリー)を本体から取り外し、有機溶剤を用いた超音波洗浄を行うことにより、データの読み出しが可能になる場合も少なくありません。

 

 

【著作権は、沼田理氏に帰属します】

 

 


 

沼田理氏
沼田 理(ぬまた まこと)
データ復旧・データ消去のスペシャリスト。データ適正消去実行証明協議会(ADEC)技術顧問。技術情報、web原稿の提供、IDF(デジタル・フォレンジック研究会)講師などを務める。神奈川県情報流出事件以降は、新ガイドライン作成へ向けた行政からの技術諮問に応じるなど活動中。2020年2月より、株式会社ゲットイットの技術顧問に就任。

執筆文献:「データ抹消に関する米国文書(規格)及びHDD、SSD の技術解説」「ADEC データ消去技術ガイドブック 第2版」他。