一般的にHDDは振動や衝撃に弱いといわれています。HDDのカタログでは、耐衝撃性として、200Gや300Gなどの大きな数字が表示されていますが、実際にその数字がどの程度のものであるのか、正しい知識を持っている人は少ないのではないでしょうか。また逆にその数字を見て、最近のHDDは衝撃に強くなっているから多少のことでは問題はないと誤解している人もいるかもしれません。
1.カタログ数値による誤解
衝撃の強さは一般的に重力加速度(G)によって表されます。例えば宇宙飛行士がロケットの発射時に受ける重力速度は、8G程度であり、ジェット戦闘機が急旋回した場合は9G、F1レースのドライバーが5~6Gといわれています。ですから、200Gに耐えることができれば、机の上から落とした程度では全く問題がないと思う人も多いのではないでしょうか。しかし、実際に測定をしてみるとこの理解は全くあてにならないことがわかります。
例えば、事務所のしっかりした机の上に、縦に置いたHDDを「パタン」と水平に倒しただけでも、100G程度の衝撃になってしまいます。倒した場所が机の上ではなく、鉄筋コンクリートのビルの床の上であったりすると、その数値が200Gを超えてしまうことすらあるのです。
つまり、硬いものが固いものにぶつかって瞬時に停止することで、重力加速度としての数値は大きくなります。同じスピードの自動車事故の場合でも、電柱や塀にぶつかる単独事故の方が、停車中の自動車への追突よりもぶつけた車の被害が大きいのもこの理由によるのです。
2.まだある誤解
HDD耐衝撃性のカタログ数値をよく見ると、1mSなどと記載があります。この数値は簡単にいうと、その衝撃が続く時間を指しています。一般的に、電気製品の耐衝撃性の試験規格は、その衝撃の波形を正弦半波(サインカーブの半分:一山)とし、その山の高さと幅の時間を規格化しています。
衝撃によるエネルギーは、単純にはその大きさと継続時間の積(掛け合わせた値:正しくは、その衝撃波形の積分値)に比例します。解釈にもよりますが、HDDのカタログに記載されている300G・1mSでは、ポータブル機器に推奨されている規格(100G・6mS)の半分程度の衝撃にしか耐えることができないともいえます。
もちろん、実際の耐振動・衝撃性では、その製品や部品の構造や重さによる共振現象、使用条件によって影響を受けやすい継続時間(周波数)を考慮する必要があります。単純な掛算だけで判定すると予想外の結果となることもありますので注意が必要です。
3.使用上の注意点
いつになってもHDDが振動や衝撃に弱いことには変わりはありませんが、特に弱いのは、HDDを水平に置いた場合の上下方向の振動や衝撃です。その理由は、サスペンション(バネ)に取り付けられたヘッドが上下方向に振動しやすく、それによりプラッタをたたくような結果となりやすいためです。NASや外付けHDDは、内部のHDD本体の姿勢が縦にならない(倒れたときに横にならない)ように設置すると、故障するリスクを小さくすることができます。
【著作権は、沼田理氏に帰属します】
沼田 理(ぬまた まこと)
データ復旧・データ消去のスペシャリスト。データ適正消去実行証明協議会(ADEC)技術顧問。技術情報、web原稿の提供、IDF(デジタル・フォレンジック研究会)講師などを務める。神奈川県情報流出事件以降は、新ガイドライン作成へ向けた行政からの技術諮問に応じるなど活動中。2020年2月より、株式会社ゲットイットの技術顧問に就任。
執筆文献:「データ抹消に関する米国文書(規格)及びHDD、SSD の技術解説」「ADEC データ消去技術ガイドブック 第2版」他。