2022年07月19日

【技術顧問の小話 #001】NAS(Network Attached Storage)とは

【技術顧問の小話 #001】NAS(Network Attached Storage)とは

 

 NASは、Network Attached Storageを省略した呼び方で、文字通りTCP/IPプロトコルで構成されたネットワークに直接接続して使われる補助記憶装置(ファイルサーバ)を指します。一般家庭でのネットワーク(LAN)、Wi-Fi(無線LAN)の普及と共に一般化し、“LAN接続HDD”などの呼び方で市場に登場しました。そのため、内部にメインボードやCPUがあり、専用のOSが動作していても、そのような意識を持つユーザが少ないのが現実であり、故障の原因として「ユーザの取り扱い上の問題による障害」が多い傾向が存在します。

 

NASがこのように短期間で一般的になった理由の一つとして、2000年代初期にシェアの拡大を狙って新規参入した某インターネット接続業者が、無線LANと併せて、無償でADSLモデムを配るような拡販キャンペーンを行ったことがあげられます。邪魔なLANケーブルを必要とせずに、ノートパソコンをインターネットに接続できる利便性に人気が集ったと同時に、HDDの大容量化にともないそれまで必需品であった「USB接続の外付けHDD」の必要性が薄れ、その外付けHDDを使用することで身近になった「データの外部保存」が、NASの市場を急速に拡大したと言えます。

 

それまでのNASのメーカは、DELL 、EMC、HP、IBM、NetApp、Netgear、といった企業向けのサーバの製造・販売を行っている企業が中心で、ほとんどの製品がサーバルームのラックに組み込まれて設置されるようなものばかりでした。しかし、バッファローやアイ・オー・データ、ロジテックに代表される、それまで家庭用パソコンの周辺機メーカとして知られていた企業が、“NAS”の名称を使わずに、一般家庭用向けに“LAN接続のHDD”といった名前で製品を発表するようになりました。その結果、ルータと並べて設置できるようなコンパクトに設計された筐体や、価格面の優位性によって、企業向け市場のシェアをも併せて得ることになったのです。特に、HDDの大容量化が進んだことによって実現されたバッファロー製の“テラステーション”(※1)の登場は、それまで米国でP-NAS(Personal NASまたはPoor man’s NAS:貧乏人用のNAS)と揶揄されていた、それらメーカの製品のシェア獲得と企業向け販売への大きな転換点であったとも言えます。

 

【技術顧問の小話 #001】NAS(Network Attached Storage)とは

 

また同時に、その筐体のコンパクトさを活かし、企業内のNASの設置場所が、サーバルーム内のラックからオフィスの本棚や机の下などに変わり、共用頻度の高いデータファイルやテンプレートファイルの収納などに気軽に活用出来るようになったことも大きな影響を与えたと推定できます。

 

しかし、それらのメーカの第1世代の製品は、家庭用として設計されていたにも関わらず、実際に購入・使用したユーザは企業の方が多いという不適合も作り出すことになり、システムの負荷が製品設計と比較して過大となり、障害の発生率が高くなってしまう結果を招きました。その障害のユーザクレーム対応を目的として、システム管理・販売業者が、データ復旧業者と製造メーカとの間を取り持ち、意見交換会の開催や試作品レベルでのモニター実施などを積極的に行った結果、2世代目以降は故障率の低下を実現、製造メーカも信頼を取り戻すことが出来たという裏話も存在するのです。

 

※1 4台のHDDを搭載し最大1TBの記憶容量を実現、RAID1としてミラーリングやRAID5として冗長性を持つ設定も可能にした。

 

【著作権は、沼田理氏に帰属します】

 

 


 

沼田理氏
沼田 理(ぬまた まこと)
データ復旧・データ消去のスペシャリスト。データ適正消去実行証明協議会(ADEC)技術顧問。技術情報、web原稿の提供、IDF(デジタル・フォレンジック研究会)講師などを務める。神奈川県情報流出事件以降は、新ガイドライン作成へ向けた行政からの技術諮問に応じるなど活動中。2020年2月より、株式会社ゲットイットの技術顧問に就任。

執筆文献:「データ抹消に関する米国文書(規格)及びHDD、SSD の技術解説」「ADEC データ消去技術ガイドブック 第2版」他。